あの日の忘れ物

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少し目を閉じて、その濁流のような気持ちを冷静に受け止めてみる。 これはきっと、後悔と自責なのだ。 別れを告げられてから、あの時こうしていれば、もっとこう言っていれば、などでできた後悔と、それをしなかった自分へを責め立てる気持ちが相まってできた1つの想いだ。 振り返れば、自分はひどいこともしたし、後悔は募る。 しかし、ひどいことをしたのは自分だけだろうか。 相手からひどいことをされなかったといったら、嘘になる。 後悔と自責で見えなくなっていたが、自分も自分が思うひどいことをされていたと、今は思う。思うことができる。 目を開けて、もう一度歯ブラシを見た。 少し目を細めた。 「ありがとう。」 そう呟き、歯ブラシを拾った。 この歯ブラシを捨てるには、引越し先で捨てるしかない。 置いていかれた歯ブラシをリュックにいれたところで、ドアのノックの後にドアが開かれた。 「あのー、冷蔵庫がトラックに入りきらなくて…。」 「えっ…。」 どうやら感傷に浸っている場合ではないようだ。
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