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カイがしかめっ面のまま頷く。ロベモント侯爵夫妻は趣向を凝らした夜会を開くのが好きで、これまでにも様々な夜会を開いている。中でも年に一度開かれる仮面舞踏会は有名だった。
侯爵家からの招待状さえあれば、身分を明かすことなく舞踏会に参加できる。誰が参加しているのかは侯爵夫妻しか知らず、舞踏会の終了時まで仮面を決して外さないのが決まりだ。あちこちで秘密の逢瀬が行われたとの話もあり、舞踏会の後は恋の噂話が宮廷中で花咲いていた。
「あの夜会には僕も参加していたけど、仮面に合わせて奇抜な衣装を用意するのが恒例だからね。レオンがどこにいるのか、全然わからなかった」
「夜会が終わるまでは正体を明かせませんから、誰が誰やら……ですしね」
「レオンは、そこで相手を見つけたってこと?」
「そのようです。話を聞いた者たちが、二人のことを『運命の相手』だと噂しているとか。どこもその話でもちきりです」
「運命?」
フロルは瞳を瞬いた。アルファとオメガの中には、神が一対として作った運命の相手がいると昔から言われていた。離れがたい特別な絆で結ばれているという二人。しかし、それは吟遊詩人たちの歌や御伽話の中のもので、現実に運命との出会いを果たした人々の話は聞いたことがない。
「そんな、滅多に出会うことがないと言われている相手と夜会で出会うなんて。……おかしいな」
「何がです?」
「だって、話ができすぎじゃないか? それに、レオンは……こんな言い方をしたら変だけど、これまで恋愛に少しも興味がなさそうだったのに」
カイが黙り込んだ。ちらりと上目遣いにフロルを見る。
「恋愛というより、フロル様以外に、でしょう?」
「誤解を招く言い方だな。僕たちは気の置けない仲なだけだよ」
「私には納得がいきません! つい最近まで、忠犬のようにフロル様にぴたりとついていらした方が、突然心変わりなさるなんて」
「心変わりって……。忠犬だなんて言い方もどうかと思うよ。でも、そんなレオンが公言しているなら、本当に運命の相手ってことかもしれない」
フロルの心は、ちくりと痛んだ。あんなにいつも一緒にいたんだから、自分に一番先に打ち明けてくれてもいいのに、と思ったのだ。カイは心変わりと言ったけれど、自分たちの間に親愛はあっても恋愛感情があるとは思えない。それでも、国の為に、家の為に。何よりレオンの為になるなら、この婚姻は大切なものだと思っている。
レオンは幼い頃から大の人見知りだ。内向的で書物ばかり読み、魔法植物など興味のあるものを研究して育てるのが好きだった。立場上、人に会わないわけにはいかないけれど、用が済めばすぐに引きこもってしまう。そんなレオンをフロルはやんわりと庇いながら、貴族たちとの間に立ってきたのだ。
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