2.レオンの苦悩

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 竜の背には山ほどの食材や酒樽、光沢のある布が積まれていた。岩の張り出た広いバルコニーに着地したかと思うと、背にあった荷物がふわりと魔力で浮き上がり、次々に片隅に積み上げられていく。  主の帰還を知った城中の使用人たちが駆けつけた頃には、カイは全ての積み荷を下ろして人型をとっていた。  先頭に立って駆け付けたのはダナエだ。カイは必ず、ダナエにもうすぐ帰ると連絡を入れる。その「もうすぐ」は人とは違い、何日もかかることがざらにあった。それでも、連絡を受けた日からダナエは一日に何度も空を見るのだ。主が笑って自分に手を振る姿を見て、ようやくほっと息をつく。 「ああっ、またこんなに買い込んで!」 「ダナエに言われたものも、ちゃんと買ってきたぞ! ……ちょっと量が多かったかもしれないけど」  得意げな主にダナエは文句を飲み込んだ。ありがとうございますと礼を言い、すぐに他の使用人たちに指示を出す。竜は奔放だ。人を連れてくることもあれば、大量に物を買い付けてくることもある。それをどうするかはダナエや料理長の腕にかかっていた。主が帰った後の城はいつも大騒ぎだ。  レオンとフロルも連れ立ってバルコニーに迎えに出た。  カイは満面の笑顔でフロルに走り寄った。しかし、片眉をわずかに寄せてフロルの顔を覗き込む。 「何だか元気がないな、フロル。それに顔色も悪い」 「……そんなことは」  ない、ときっぱり言えずにフロルが口ごもった。隣にいたレオンが心配そうにフロルを見る。カイはちらりとレオンに目を走らせて、ははあと見当をつけた。 (たぶん、こいつが原因なんだろう。大方、構いすぎといったところか)  その大元の原因を作ったのは自分であることに、カイは全く思い至らなかった。  (つがい)になったばかりの相手を囲い込みすぎて弱らせてしまうことは竜にもある。竜なら大抵弱った方が、満身の力をこめて番を尾で殴り飛ばす。愛する番から痛烈な一撃をくらったところで、ようやく弱らせた竜は自分の行いを反省するのだ。 (……だが、フロルは竜じゃないし)  レオンを叩きのめすことなど考えもしないだろう。ちょうどいい、酒もあるしなとカイは考えた。人間たちは酒場でよく互いの話をしているものだ。 「リタ!」 「はい、主様」 「フロルにも買い付けたものを見せてやれ。珍しい菓子やシセラのものもあるから」  フロルはリタに手をひかれて歩き出す。レオンがその後を追おうとするので、カイはすぐに引き止めた。 「レオン、お前はこっち」  いきなり睨みつけられて、渋々レオンはカイの後についていった。カイは城の最上部にある自分の部屋にレオンを招き入れた。広々としたカイの部屋には色鮮やかな絨毯が敷かれ、背もたれのない長椅子が置かれている。片側にだけ枕のようなひじ掛けがある椅子は、仮寝に便利なのだと言う。カイが指を鳴らすと、空中から同じ椅子がレオンの元に現れた。  レオンが恐る恐る腰かけると、扉が開いて使用人たちが次々に酒樽を運んでくる。続いてダナエが入ってきて、果物や炙り肉の載った皿を二人の間にある大理石のテーブルに置いた。すると、カイはダナエたちに向かってひらひらと手を振った。もう下がっていいという合図だ。ダナエは使用人たちを引き連れて貯蔵庫へと向かう。今日は皆、やることが山ほどあるのだ。
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