3.フロルの発情 ※

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 ――名を、呼ばれた。    ぱちりと目を開けた時、大量に転がっていたのは酒樽の山だ。レオンは半身を起こして辺りを見回した。椅子に転がってぐうぐうと気持ちよさそうに眠っているカイがほぼ一人で空けたと言っていい。散々説教をくらいながら、いつの間にかレオンも眠ってしまっていた。  頭を振って立ち上がると酔いは残っていない。部屋に戻ろうと扉を開けると、冷えた空気の中に、ふっと花の香りが混じるのを感じた。その途端、早鐘のように心臓が鳴り出した。 (これは……この香りは)  間違えようもない、大切な唯一人の持つ香りだ。レオンは即座に目の前の階段を駆け下りた。まるで夜目がきくように、静まり返って暗い城の中を走り続けた。  大きな音を立てて二人の部屋の扉を開けた時、濃厚な花の香りが一気にレオンに向かって押し寄せた。体中の毛が逆立ち、あっという間に下半身が猛り狂う。まるで質量を持っているような濃密な空気をかきわけて、レオンは続く寝室に入った。 「フロ……ル?」  ベッドの中で体を丸める者の姿にレオンは目を見張った。そこには、生まれたままの姿のフロルがいた。フロルが抱きしめているのはたった一つ、自分の長衣だけだ。 「……れ、おん」  聞いたこともないような甘い声で自分の名を呼ぶ。すぐ側に行くと、頬も肌もうっすらと赤く染まり、紫の瞳は妖艶な輝きを見せている。レオンは、今すぐにも襲いかかりたい気持ちを必死で堪えた。フロルはレオンの姿を瞳の中に捉えたかと思うと、にっこりと笑う。 「まって、た……」 「フロル……」 「……れおん、もう、かえって……くるかな、って」  あどけない呟きに、レオンの心は締め付けられた。この言葉は今だけのものだろうか。フロルは、これまでもこうして自分を待つことがたくさんあったのではないだろうか。  フロルは心の内を言わない。レオンのことを思っての忠言はあっても、自分の心を伝えることは滅多になかった。  ――あの子は、お前に尽くせと言われて育ってるんだ。それに甘えるな。  カイの言葉を噛み締めながら、レオンはフロルを壊してしまいそうなほど強く抱きしめた。 「遅くなって……ごめん」  フロルの両手が伸びてレオンの首に回る。一層花の香りが強くなり、レオンは堪えきれず唇を合わせた。フロルの舌も、歯も、唾液も、全てが甘い。口の中の全てを味わい尽くすようにゆっくりと舐めていく。舌を伝う唾液はまるで甘露のようで、夢中になって全てを飲み込んだ。
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