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第一話『学問の神様』
プロロ―グ
『じゃあ勉強なんて意味ないじゃない!役に立たないし、じゃあ今まで私のやってきた勉強は無駄なの?』
夕暮時、私は河川敷で叫んでいた。
菅原くんはそれを見て一瞬驚いた顔をしながら言った。
『いや、無駄ではないんじゃない?きっとどこかで役に立っているんだと思うよ。』
『どこかってどこ?私は本当は勉強なんてずっとしたくなかったのに!』
第一話『学問の神様』
『言結ちゃんって本当頭いいよね~。羨ましい。』
私の顔を見ながら友達はそう言った。
(”頭がいい”····か。)
私はスカートを机の下で握り締めさらに笑顔を作りながら言った。
『そんな事ないよ〜。私は全然頭がよくなんてないよ。』
『そんな事ないじゃん!いっつも成績優秀者を載せる紙にのっているじゃん!』
(”頭がいい”と”勉強ができる”って言うのは別物なんだけどなあ···。)
私はそんな事を考えながらゆっくりと口を開いた。
『そんな事ないよ。私は全然頭がよくなんてないよ。』
キ―ンコ―ンカ―ンコ―ン
キ―ンコ―ンカ―ンコ―ン
私がそう言うとチャイムがなった。友達は『バイバイ!』と言って席に戻って行った。
放課後
『やっと帰れる···。』
私は帰り道、一人ごとをつぶやいた。
横断歩道の信号が青くなったのを確認して渡った。
すると急にトラックが出てきてしかも止まらないのだ。
(え、私これ死ぬんじゃー···)
ドンッ!
ブシャッ!
どのくらい気を失っていたのだろうか。
私は走馬灯を見ていた。
私はいつまで嘘の笑顔を作り続けるのだろうか。
一度でいい、心の底からお腹の底から笑ってみたかった。
『大丈夫?』
そう言って私の前に現われたのは、同じ歳くらいの男の子だった。
あれ?私、トラックにひかれたのになんでこんな意識がはっきりしているんだろう。
『ああ、えっと····。』
"大丈夫です。"と言おうとしたがまずこの状況が理解できないのだ。ええと、確か―···。
『君は、トラックにひかれて今、生死をさまよっているんだよ。』
『え?えっとどういうことですか?』
言っている意味が全くわからない。何を言っているんだろうか。
『ほら、あそこの救急車。君が今担架に運ばれているよ。』
『ひぃっ!!。』
私は、思わず声をあげた。
なぜなら頭から血をながし足からは大量の血を流している私がすぐ目の前にいたからだ。
よく見ると少し奥の方にパトカーがあった。
警察官が数人いてトラックの運転手らしき人と話していた。
『ど、どういうこと?ねぇ、私は、なんで生死をさまよっているんだったらなんでここにいるの?』
『まあまあ、落ち着いて。君はトラックにひかれた時に幽体離脱して、一時的に幽霊になっちゃたよ〜って感じ!』
『え?私、幽霊なの?』
『そういうこと!俺と幽霊仲間!!』
『えぇ?あなた幽霊なの?』
白いシャツを着た男の子は、なぜか咳払いをして言った。
『俺は、菅原道真。学問の神様で日本三大怨霊の一人。』
『菅原道真·····。』
教科書で何回か見たことがある。
ひげが長くて、勉強がすごくできる人だ。
しかし私の前にいる男の子は、ひげがなくて少し童顔でかわいらしい子だ。
本当にこの子、菅原道真···?
『俺、学問の神様なんだけど実は勉強嫌いなんだ〜。』
(えぇ、学問の神様が勉強嫌いって言っている。すごい光景だ。)
『で、今日は君に会いにきたんだ〜。』
(なんで、私なんだろう。)
『”歴史学校”っていう歴史人物が、通う学校があって俺はそこの案内人。君を連れてくるように頼まれたから君に会いにきたんだ〜。』
『は、はぁ·····。』
『まあ、詳しい説明は向こうでするからついてきてよ。』
(うーん、さっきから聞いてて怪しいこと言っているんだよな。それに私、歴史人物じゃないし····。)
『あの···。私、歴史人物じゃないですよ?なのに、どうして?歴史人物が通う学校に通うことになってるんですか?』
私がそう言うと白いシャツの男の子はニコッと笑った。
『あたりまえじゃん!君も立派な歴史人物だよ~。』
(なんで?私、偉いことしてないのに。)
『”人”の人生が”歴史”だ。”人”と”人”が関わることに、よって”歴史”が生まれる。』
『は、はぁ。』
『”人”が関わる事によってトラブルが生じる。そんなとき、助けたり解決したりすることでその人の”歴史”を作る事ができる。』
(この人、何言っているんだろ。)
『まあ、そんな事はおいといて、とりあえずついて来て〜。』
(ついていっていいのかな。どう見てもこの人怪しいし···。)
『ごめんなさい。私、勉強しなきゃいけないので。』
私がそう言うと、菅原くんは一瞬、驚いた顔をした。
『まあまあ、いいじゃん。たまには、遊びも必要だよ?なんで、そんなにやるのさ。』
(私だって本当はもっと遊びたい。でも、遊ぶと時間が取られてしまうし···。)
(時間が取られて、私が今まで培ってきた知識が消えるのが怖い。それにお父さんとお母さんの期待を裏切りたくないし···。)
そんな時、頭の中にある人の言葉がよぎった。
『言結ちゃんって本当頭いいよね~。羨ましい。』
違う違う違う!!
私はなんで、頑張っているのに、誰も私の努力を見てくれないの?
だめだ、涙が出てきそうになる。
『大丈夫?』
『う、あ、はい。』
(私は、人の話中になに考えているんだ。)
『じゃあさ、勉強から抜け出して遊ぼうよ。』
『え。』
まさかそんな事言われると思っていなかったので
固まってしまった。
『勉強なんてさ、くだらない事をいってるだけなんだからさ。』
そう言って白いシャツの男の子―菅原道真くんは私の手をひいた。
『せっかくやるんだったら楽しくやろうよ。』
楽しく··か。考えたことなかったな。
この白いシャツの男の子―菅原くんの事を信頼できた気がする。
『せっかく遊ぶならさ、とことん遊ぼうよ。どこ行きたい?』
(私がやりたいこと··か。甘いものが食べたいしジェットコ―スタ―にも乗りたいなぁ。)
『遊園地、あ、あと甘いものが食べたい!』
『うん、わかった。』
『甘いスイーツのいいお店、知ってるんだ〜。』
菅原くんは、にやっと笑って言った。
『で、言いづらいんだけど、俺と君は、幽霊だから行くとしても天界の所しかいけないんだ〜。』
菅原くんは、私の方を見て言った。
『それでもいい?』
『はい。全然大丈夫です。』
私がそう言うと、菅原くんは、ニコッと笑った。
『よかった〜。じゃあ、一緒に河川敷まで来てくれない?。』
(なんで河川敷なんだろう。)
10分後、私と菅原くんは河川敷にいた。
菅原くんは私には聞き取れないなにかをいっていた。
(なに言ってるんだろう。)
『よし!できたよ~。神野(かみの)さん、こっちおいで〜。』
『あ、はい。』
そう言いながら私は菅原くんの元にいった。
『って、菅原くん、なにこれ?』
菅原くんと私の前におっきい扉があった。
『ああ、これはなんか天界に行く扉みたいなかんじ〜。』
『へ、へぇ·····?』
『じゃあ、準備はいい?』
『え?』
なにを言ってるんだろうかと思っていたらクイッと優しく手をひかれた。
『今から飛び込むんだけど、高いとこ大丈夫?』
『は、はい?』
『んーと、この扉に入ったら天界に行けるよ〜って感じ〜。』
『は、はぁ···。』
『じゃあ、せーので飛び込むよ!』
『え?私、高い所ちょっと苦手でー·····。』
私がそう言うと菅原くんはニコッとわらった。
『大丈夫。それにもし神野さんが落ちても俺が守るさ。』
(え、菅原くん優しい。最初は怪しかったけどいい所あるのね。モテそう。)
『せーのっで行くよー。大丈夫?』
菅原くんは私の顔を心配そうに覗き込んだ。
私は小さくうなずきながら『うん。』と言った。
菅原くんはそれを見てニッコリとわらった。
『じゃあ、いっくよ!せーのっ!!』
菅原くんが手を大きく振り上げたー···そして扉の前にとびこんだ。
『わ、わぁっ·····。』
私の目の前に広がっていたのはすごく綺麗な景色だった。
ビルやマンションの横に花壇があって、緑や紅葉、植物がたくさんあり、とてもカラフルでいい町だと思った。
(へぇ、天界ってこんな所なんだ。綺麗だなぁ。)
私は呑気にそんな事を考えていた。
すると菅原くんが口を開けた。
『ここらへんでスイーツが美味しいとこはたくさんあるんだ。どんなスイーツがいいとかある?』
(菅原くん、優しいなぁ。えー、うーん····ホイップのたっぷり乗っかったホットケーキが食べたいなあ。)
『ホイップがたくさん乗っかったホットケーキが食べたいです!!』
『うん、OK〜。』
菅原くんは、少しなにかを考えるしぐさをした。
(菅原くん?どうかしたのかなぁ。)
『菅原くん?』
私が話しかけてるとよほど集中してその事を考えていたのか菅原くんは驚いた顔をした。
『ん?あ、ごめん。行こっか。』
15分後
菅原くんの言っていたいいお店というのはすぐにみつかった。
路地裏の少し奥に入った所だ。
桃色とさくらんぼのかわいい絵が、屋根に描かれていた。
(わぁ、かわいい〜。)
私がキラキラした目でかわいらしいデザインの看板や屋根を見ていると菅原くんはくすっと笑った。
『え?なに?』
私は後ろを振り向いた。
『ごめん、ごめん。そういえば神野さんの嬉しそうな姿が可愛くって。』
か、かわいい!?私が?私は顔が自然と赤くなるのを感じた。
『じゃあ、入ろっか。』
私はバクバクする心臓を服の上から抑えながら歩いた。
『う、ぁ゙あ、はい。』
私と菅原くんは、おしゃれな装飾をしているお店に入った。
カランカランと気持ちのいい鈴の音がなった。上を見ると、鈴が取り付けられていた。
『いらっしゃいませ。何名様ですか?』
私と菅原くんが入ると可愛らしいお姉さんが出てきた。
『2名です。』
菅原くんが慣れた手つきで言った。
『2名様ですね。あちらの窓ぎわの席でもよろしいでしょうか?』
そう言ってお姉さんが手の平を席に向けた。
『全然大丈夫です。ありがとうございます。』
(菅原くん、感じいいなぁ。)
『じゃあ、行こっか。』
『はい。』
菅原くんと私は席にすわった。
菅原くんは私はお互いに向かい側の席にすわった。
中は思ったより混んでおらず中には私と菅原くんぐらいだった。
机の右端にメニュー表を菅原くんはさっととって、私に渡してくれた。
『ん。はい、どうぞ。』
『あ、ありがとう。菅原くんは見なくていいの?』
私が少し心配そうにいうと菅原くんはへにゃっと笑った。
『大丈夫さ、それに俺じゃなくて今日は神野さんが
主役でしょ?』
(菅原くん!なんていい子なの!!)
私は菅原くんの優しさに内心感動した。
(ん~、なににしようかな。)
私はそう思いながらメニュー表を見た。
“ホイップつけ放題激うまホットケーキ”1200円
ん~~、美味しそう。でも値段がちょっとなぁ。
”季節限定!いちごのパフェ!”800円
あ、こっちなら値段的に大丈夫かも。
でも私が今食べたいのは、パフェじゃなくてホイップが乗っかったホットケーキなんだよなあ。
私が迷っていると菅原くんは言った。
『大丈夫。俺がお金払うから。』
菅原くんは優しい目で言った。
『え?いいんですか?でも私、財布ー···。』
”持ってますよ”と言おうとしたが辺りや体のあちこちをさわってみる。
『え?あ、ない。』
もしかして車にひかれた時、一緒にどっかに飛んだ!?
『神野さんがトラックにひかれた時、学生カバンが飛んじゃったのさ。まあ、こっちの世界でも、おんなじものが渡されるから、大丈夫。』
(うーん、本当かなぁ。)
『遠慮しなくていーから。大丈夫、大丈夫!!』
(うーん、じゃあー·······)
『このホイップホットケーキが食べたい!』
『ん、りょーかいっ!』
菅原くんはそう言いながら机の上のボタンを押した。
すぐに店員さんが来て注文を聞いてくれた。
待っている間、菅原くんが急に暗い顔になった。
『菅原くん?どうかしたの?』
『ああ、いや、なんでもない。ちょっと考え事してて。』
考え事?私は頭の中で首をかしげた。
『お待たせしました〜。ホイップホットケーキを頼んでいるお客様は···、』
『はい。私です。』
私はそう言って手を挙げた。
『はい、じゃあ前から失礼します。』
店員さんは、そう言って私の前に置いてくれた。
20分後
『ふー、美味しかった。』
私はそう言って腕をのばした。
『良かった〜。』
菅原くんは、一瞬だけまるで小さい子供を見るような優しい目で私を見つめた。
『え?』
『ああ、ごめん。なんでもない。』
『?』
『じゃあ、行こっか。』
そう言って菅原くんは席を立った。
15分後
『で、歴史学校についてなんだけど。』
『は、はい。』
私は、菅原くんの話を聞いていた。
歴史学校とは歴史人物が通う学校らしい。
私はそこでやらなきゃいけない事があるらしく私はそれを聞いていた。
『鍵を見つける?』
菅原くんの話によると、私は何らかの歴史人物らしい。
歴史学校には、歴史人物の部屋があってそこにあう鍵を見つけるらしい。
『俺が、案内するからついて来てくれない?』
それから、私は菅原くんについていった。
10分後
私は歴史学校についていた。そこで説明を受ける事になったのだが。
『あ、紅葉ちゃん〜。』
担当者が電話でデレデレした声で、はなしているので、どうしていいのかわからないのだ。
『この人は、伊藤博文。この学校の校長なんだ··けど、大の女性好きで。』
うわあ、と軽めに引く私をよそに伊藤先生はにやついた顔で話している。
「私、博文の事,大好き〜。」
電話の中から甘い女性の声が聞こえた。
あと、今、思ったけどスマホの電話、スピーカーモードになっている事に気づいてないのかな。
私は伊藤先生を見ていた。シュッとしてかっこいいんだなあ。
まるで、イメージでいうと在原業平さんみたいな··。
平成時代版プレイボーイといった感じだ。
いや、私、在原業平さんに会った事もないし、勝手に決める事はよくない。
私と菅原くんの視線に気付いたのか一瞬、後ろを向き、ペコッと礼をした。
それから急いで電話を切って、私の方を向いて歩き始めた。
『いやぁ、ごめん、ごめん。待たせちゃって。さっきのは俺の彼女。紅葉っていうんだ。』
もみじって言うんだ。紅葉と伊藤博文さんで、思いつくエピソードは、もみじ饅頭の事ぐらいしか浮かばない。
茶屋の店員さんの手を見て伊藤さんが『この小さい手を饅頭にして食べたい。』って言ったかららしんだよね。
そこの発言から、着想を得て“もみじ饅頭“が誕生したらしい。お母さん、お父さんいわく。
はぁ、心底くだんない。なんなんだ。その理由。
そもそも、私は歴史が嫌いである。歴史になんてどこにドラマがあるのだろうか。
だったらなんで歴史について知っているのかと言うとー
お父さんと、お母さんが、聞いてもないのに食事中にわざわざ歴史の話を、一方的に話していたからである。
さらに、盛り上がってきたら、お父さん、お母さんが私を置いて話始めるのだ。
そういう時は、ただひたすらうつむきながらご飯を食べたり、箸の木目の数を数えたりしていた。
まぁ、私のお父さんとお母さんは職業柄、歴史が、好きだから、自分の”推し“が他の人に崇拝されたり好きにならなかったりするのは苦しいのだろう。
私がそう思っていると伊藤博文さんー伊藤さん
いや、伊藤先生が口を開けた。
『初めまして。私は、伊藤博文と申します。』
目の前で伊藤先生は、ニッコリと笑いながら言った。
伊藤先生の髪は整髪料をたくさん塗ったのか、くせ毛一つすら、立っていない。さらにいい香りがする。
これは、女性に人気がありそうだ。
『それで、君は、神野(かみの)言結(ことゆ)さんだよね。それじゃあ、神野さん。』
伊藤先生は真面目な目で言った。
仕事については真面目な所もあるんだなと思った。
まあまあ失礼な事を思ってしまったが、邪な気持ちを取り払い、伊藤先生の声に耳を傾けた。
『歴史学校の制服配ったり担任の説明をしたりするから、校長室まで来てくれる?』
『は、はいっ。』
伊藤先生は私の方を見てから、菅原くんの方を見た。
『それで菅原くんも一緒に来てくれる?この学校の案内人だから。』
『はい。』
5分後
校門から意外と第1教棟の校長室への距離は意外とあった。歩いて大体5.6分だ。
私は制服を配られた。
制服はカスタマイズしてもいいらしいし、選べたり自由らしい。
私は、着物風、江戸時代風などとたくさんあったが私はその中から平安時代風を選び、女子更衣室で着替えさせてもらい、それから教室に行った。
平安時代風の制服はとてもかわいらしいものだった。
十二単や褶(読みかた→しびら、現代で言うと、エプロンのようなもの。)をモチーフにしたのだろうか。
ひだのついたスカートは非常に可愛い。
10分後
”1年B組“と書かれた教室に私は入った。
『緊張する。』
私は心臓がバグバグしていた。
『大丈夫だよ。』
菅原くんは私を見ながら言った。
そうすると、誰かの足音が聞こえた。
やばい、めっちゃ緊張すると私が思っていると、くせ毛の女性の先生に声をかけられた。
『あら、あなた転校生の神野さん?あ、菅原くんもいるのね。私は清原(清少納言)っていいます。あなたのクラスの担任です。』
『清原先生、俺はここで待っている方がいいですよね?』
『ああ、はい。菅原くんは待っててくれるかしら。』
2人が会話しているのを見ながら私はこんな事を思っていた。
(うわ、清少納言さんだ。私、あんまり好きじゃないのよね。)
私が、歴史人物ー…虚像崇拝をしているお母さんとお父さんの前で言ったら怒られそうだ。
『それで、神野さん。教室にみんながいるんだけど、一回説明してくるわ。』
そうと言った清少納言さんー…清原先生は、歩いて教室に行ってしまった。
『神野さん、今、時間的にHR だと思う。頑張ってね。』
『あ、あと図書室の奥の部屋には入ったらだめだよ。』
『は、はい。』
私がそう言うと、後ろの方から『神野さーん。』と声をかけられた。
私は『はい。』と返事をして教室に行った。
心臓の音が、私の耳に入ってくる。
私は、心の中で何度も大丈夫と唱えた。
私は教室に入った。
『はじめまして。私は神野言結です。よろしくお願いします。』
『転校生、かわいいくない?』
『あ〜、わかる。』
『女の子だ〜。嬉しい。』
教室には様々な会話が飛び交った。
そんな中、清原先生が、口をひらいた。
『え〜、皆さん、静かにしてください。』
清原先生が、言うとピシャリと会話がとまった。
『神野さん、緊張してると思うから話かけてあげてね。それから神野さんの席は、右から3列目の二番目よ。せっかくだから、お隣さんとも話してみてみると、いいわね。』
そう言って清原先生は私の席を指差し席に座る事を促した。
教室の机は全部で、40個あった。縦5列で、横は8列と結構多い。
ええと、私の席はー…
そう思いながら私は自分の席に向かうと、隣の男の子が『よろしく〜。』と声をかけてくれた。
『僕、紀貫之って言うんだ。しばらく君と近くの席だし、色々よろしく。』
紀貫之さんー········あっ、思い出した。
人はいさ〜の百人一首に選ばれた和歌を作った人だ。
私はすごい人が隣になったなと思いながら席に座った。
それから清原先生は朝の伝達事項を伝えた。
そしてー…
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
朝のチャイムが鳴り、礼をして終わった。
礼をした後、たくさんのクラスメイトが話かけてくれた。
『私は北条政子。好きなタイプは浮気しない人かなぁ。よろしく〜。』
北条さんは、頼朝さんのために演説した人で、あとは頼朝さんが浮気したらその浮気相手の家に行ったっていう話があるよね。
まあ、これお母さんやお父さんから聞いた話だけど。
『俺、源義経。好きな事は運動だ!よろしくな!』
そう言ったのは、THE体育会系男子だった。
『私は陸奥宗光です。よろしくお願いしますね。』
えーと、確か陸奥さんは政府に反対する意見を言って、逮捕されてしまった人だ。
私達の身近な例でいうと、不平等条約をなくしてくれた人だ。
わ、わ〜。すごい、歴史の教科書で見た事のある歴史人物ばかりだ。
歴史人物が私に『よろしく〜。』と言ってくれるすごい状況に私は戸惑いながら『よろしく。』と言った。
1時間目 理科 担当 湯川秀樹
『ねぇ。神野さーん、次の授業の先生ってどんな人だと思う〜?』
そう言って私に話しかけたのは隣の席の紀貫之ー…さんだった。
えぇっと、さっき校長室に行った時、教科書とかノートとか筆記用具とかスマホとか必要な物もらったんだよね。
『うーん、えっと…。』
私はどこかに参考になるものはないか教室を見渡した。
(あ!教室の時計の横に時間割表があった。)
私は立ち上がり、時間割表を見た。
『あ、きのくん。見て見て。湯川秀樹さんって、書いてある!』
私はきのくんを見ながら言った。
『そうそう!時間割の横に名前が書いてあるんだよ。色々見てみると面白いよ。』
『へぇ……。』
私はそう言いながら時間割表をみた。
書道 藤原行成(ふじわらゆきなり)
数学 デカルト
理科 湯川秀樹(湯川先生がいらっしゃっらない時は緒形洪庵(おがたこうあん)先生
緒方洪庵さん…?聞いた事のない名前だ。どんな人なんだろう。
国語
清原先生
(…?なんで他の先生には下の名前まで書かれているのになんで書かれてないんだろう。)
私はそんな事を思いなから時間割表を見ていた。
するとー…
ドアがガラッと開く音がした。
そこから入ってきたのは湯川秀樹さんー…湯川先生だった。
私は邪魔になると思いサッとのいた。
それから3分ぐらいだった後にキーンコーンカーンコーンとチャイムの音がなった。
『それでは授業を始めます。あ、君!神野さんやろ。私は湯川秀樹って言うんやけど、これからよろしくお願いしますわぁ。』
湯川先生は丸メガネをかけていて穏やかな目をしていた。
湯川先生は笑顔で言った。湯川先生の笑った顔は素敵だった。
『は、はい。神野言結です。よろしくお願いします。』
『それじゃあ、陸奥委員長、号令かけてくれる?』
そう言って湯川さんは号令を委員長にかけるよう促した。
あ、このクラスの委員長ってさっき話かけてくれた陸奥くんだったのね。
『は〜い、じゃあはじめるで〜。今日は少し肌寒いなぁ。窓ぎわの人は寒かったらしめてええよ〜。』
湯川先生はそう言いながら教科書を開いた。
『ええとなぁ、今日やるとこは免疫や。あ、みんなはまだ教科書開かんでええからな。』
(免疫…まだ授業でやってない所だ。私、大丈夫かなぁ。)
『みんなは、インフルエンザとか、風邪とか病気にかかった事あるか?まあ、1度もかかった事のない人はおらんわなあ。』
『体の中ウイルスが入ったら戦わないといけないでしょ?そんな時戦ってくれるのが白血球や。体を守ってくれる仕組みを免疫っていうんや。』
そう言って湯川先生は黒板に、イラストを書き始めた。
『一度、体内にウイルスが入ったら急には対処する事ができんのや。一回、記憶せないかん。この記憶してくれる細胞を記憶細胞っていうんや。』
へぇ~、体の中ってこんな感じの仕組みだったんだ。知らなかったなぁ。
『でも、記憶するだけじゃだめやろ。ウイルスと戦わなあかん。体に害を及ぼすものがおるんやから倒さないといけんやろ。ウイルスと戦ってくれる体の中の兵士さんみたいな役割をしているのが抗体っていうんや。』
へぇ…、そうなんだ。
『抗体っていうのは、違うウイルスには対応せんのよなぁ。例えば、インフルエンザのウイルスが入ってきてそれに対応する抗体が作られる。でも次にノロウィルスが入ってきたらそれは対応できん。』
『今まで要約しながら話したけど、免疫全体の事をキーワードを使いながら話していくわ。』
そう言って湯川先生はチョークを強く握り黒板に”1次応答”とかいた。
『ウイルスが急に入ったら対処できんし、ウイルスと戦ってくれるのを抗体っていったやん。この抗体っていうのを作ってくれている白血球をB細胞って言うんや。』
へぇ~、そうなんだ。
『あ、ちなみにこのウイルスの事を抗原って言うんや。』
ふーん、そうなんだ。くだらないな。
私はとっさにすごく失礼な事を思ってしまった。私はなんでこんなにも心が汚れているのだろうか。
『抗原っていうのは、ウイルスだけじゃないで。花粉とかハウスダストとかあと毒とかも抗原にはいるんや。』
へぇ。
『急にウイルスー…抗原が入ったら、白血球の1種B細胞が抗体ーウイルスと戦ってくれるのを作ってくれる。』
そうなんだ。へぇ……。
私は心の中ですごく冷たい声で言った。
『この免疫全体の反応を1次応答っていうんや。』
勉強なんてどこで役にたつんだろうか。
だってどこにも役に立たないし、日常生活で使う事なんてないのに。
(っていけない!先生の説明聞かなくちゃ。)
私はノートを取り出し、急いで書いた。
『それで第二次応答っていうのがー…。』
湯川先生がせっかく説明してくれているのに私は、
勉強ってつまらないなぁと思いながら聞いていた。
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
チャイムの音が鳴り、ようやく長い授業が終わったようである。
やっと終わったと思いながら私は教科書とノートを机の中にしまった。
休み時間になるとみんな話かけてくれた。
『ことゆちゃんだよね。あなた。』
『ああ、はい?』
何事かと思い、私は上を見上げた。
『私は藤原高子(ふじわらのたかいこ)。よろしくね。』
上を見上げるとロングヘアの黒髪美人が、いた。
髪の毛は腰ぐらいまであり、髪の毛はサラサラだった。目はぱっちりとしており、透き通った赤の色や緑の色が含まれた綺麗な目をしていた。
立てば芍薬、座れば牡丹というのはまさにこの事だ。
(モテてそう…。)
私はとっさにそう思った。
『綺麗…。』
私は一人ごとをつぶやいた。
聞かれてないと思ったら、意外と聞かれていたようで、藤原高子さんは笑顔で、『ありがとう。』
と言ってくれた。
『ああ、あの、ごめんなさい。キモかったですよね!?』
私は焦りながらそう言った。
『ああ、いや、全然そんな事ないよ。気にしないで〜。それにそう言うことゆちゃんだって結構かわいいじゃない。』
『え?あのいや、そんな事ないです。』
『え〜?結構可愛くない?てか、さっきからなんで敬語?』
高子さんは私を見つめながら言った。
うぅ、頼むからそんな綺麗な目で見つめないでくれ。ドキドキするから。
『え。あ、ごめんなさい。無意識でした。』
『え〜、そうなの?じゃあ私の事、名前で呼んでくれない?』
『え?あのー。』
戸惑う私に対して高子さんは至近距離で顔を近づけた。
(ちょっ、近い近い!!)
『たかいこ、ほら、言って見て?』
(近い!あ、あと高子さん近くにいるといい匂いするなあ。)
『〜ぅ゙っ。た、たかいこ…さん。』
『だからぁ、”さん“つけなくっていいってばぁ。』
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
『あ、やばっ、ことゆちゃん、またね。』
そう言って高子さんは走りながら笑顔で手を、ふった。うわぁ、高子さんってコミュ力もあるのか。すごいなぁ。
2時間目 社会 担当 篤姫、坂本龍馬
2時間目は社会だった。
担当の先生らしき人が2人いるのだ。なぜだろうかと思いながら私は、2人を見つめていた。
一人は女性だった。
明るい雰囲気のある女性だった。
半袖のTシャツにパンツという、シンプルな服装だった。
半袖Tシャツの字のフォントが見たことのない個性的なフォントだった。
2人目は元気そうな男性だった。
センター分けがよく似合うかっこいい感じの人だった。坂本先生は袴を着ていた。
しかし、靴は黒色の運動靴というよくわからないチョイスの服装だった。
『それでは、始めます。』
『ぜよ!』
一瞬、すごい声が、聞こえた気がするが、みんな聞こえないのかそれに関しては何もリアクションをしていなかった。
『起立ー、礼!お願いします!』
陸奥くんの透き通った綺麗な声が教室に響いた。
坂本先生は号令が終わった後、教壇ではなく机を巡回し始めた。
一体、なにをしているのだ。坂本先生は。
『では教科書Pー…。ってあら。あなた、神野さん?』
女性の方が、私を見た。何事かと思っていると女性はこう言った。
『私は、篤姫(あつひめ)といいます。これから、よろしくお願いしますね。』
篤姫さんは、にこりと笑みを浮かべながら言った。声のトーンや物腰が柔らかそうな人だと思った。
『あ、ちょっと、坂本先生!神野さんに自己紹介してください。』
そう言いながら篤姫先生は坂本先生を呼びとめた。
『あ、はーい。俺、坂本龍馬って言います。みんなからは龍馬って言われているから龍馬先生って呼んでくれると嬉しいぜよ。』
龍馬先生は、そう言ってニコッと笑った。笑顔がかっこよくて人気がありそうな先生だ。
50分後
休み時間になると、みんな話しかけてくれた。
私はその話に耳を傾けながら、考え事をしていた。
(た、楽しかった。けど、なんか疲れた…。)
2人の授業を要約すると、こんな感じだ。
まず、篤姫先生が説明中に坂本先生ー…龍馬先生が巡回し、寝ている生徒を起こしたり、教科書の何ページを開けばよいかを教えたりしていた。
あと…急に不規則な方向で当てたりしていたので私は先生の話を聞きながら、心臓がバグバグしていた。
たまに歴史人物になりきって、龍馬先生や篤姫先生が寸劇をしてくれたり、生徒を混ぜて寸劇の登場人物にしてくれたり…と色々楽しかった。
でも、歴史あんま好きじゃないのよね。
正直に言えば私は歴史が嫌いである。
こんな事を、言ってしまえば歴史人物にとても失礼な事は百も承知だ。
歴史ってどこで役に立っているのかわからないのだ。
そもそも、歴史人物があの時ああしてくれたから、今があるんだ!という私はそういう考え方に納得できない。
だって別にその歴史人物ではなくても誰だっていいじゃないのか。
本当、歴史って面白くない。
いけない。こんな事を思ったり考えたりするのは。
お母さんとお父さんに怒られてしまう。
私が、そう思っていると急にお腹が気持ち悪くなった。
『ゔぅ…。』
私はうずくまりお腹をおさえた。
すると、とっさに歴史を崇拝していし、人に自分の考えを押し付ける気持ちの悪い両親の姿が浮かんだ。
すると、話しかけてくれたクラスメイトが心配した顔になった。
『ことゆちゃん!?大丈夫?』
たかいこちゃんやきのくんの声など様々な声が聞こえた。
20分後
私は悪夢にうなされていた。
『やっぱりことゆちゃんってすごいね!』
違う。私はすごくなんてない。人一倍、記憶力や理解力がないから頑張っているだけ。
ピーンポーン
『大丈夫?神野さん?』
私の耳に入ってきたのは、菅原くんの声だった。
あ、なんか答えないと…、聞こえてないと思われてしまう。
『す、すが、菅原くん……?』
私は『大丈夫?』に対しての応答ではなく変な答え方をしてしまった。
私はそう言いながら辺りを見渡した。
白いふかふかとした毛布、白い枕ー…
ここってまさかー
保健室のベッド!?
私が無理に起き上がろうとすると菅原くんが、『無理に起き上がらないでいーよ。』と言ってくれた。
『大丈夫?神野さん、歴史の授業が終わった後、机から転げ落ちて倒れたみたいだけど。』
『え。あ、そうなの?』
私はキョトンとした顔をした。
だったら誰が私を運んでくれたんだろうか。
そう思っていると、保健室のドアがガラッと開く音がした。
『神野さん!?大丈夫!?』
そう言って入ってきたのは清原先生ー…清少納言さんだった。
『き、清原先生!?どうしてここに!?』
私は思わず大きな声が出た。
『どうしてって…、当たり前じゃない。生徒を心配するのは。』
清原先生は眉を下げて言った。
清原先生は菅原くんの方を見て言った。
『菅原くんもありがとう。神野さんを運んでくれて。』
『え?私を運んでくれたの菅原くんなの?』
私は驚くとともに、重たくなかったかなど色々心配した。
『清原先生、まぁ、俺は歴史学校の案内人だし、全然大丈夫ですよ。』
菅原くんは笑顔で言った。
『そうかしら?じゃあ、菅原くん。神野さんが元気になったら教室に戻してあげて。事情は担当科目の先生に説明してあるから。』
『はい。わかりました。』
『じゃあ、神野さんも無理しないでいいからね。』
そう言って清原先生は、保健室を出ていってしまった。
バタン…
(年頃の男の子と2人きりは気まずいなぁ。)
清原先生が行ってしまった。
私は心の中でかなり失礼な事を、思ってしまった。
『……。』
『······。』
私と菅原くんの間に沈黙が流れた。
どうしようと私が思っていると、先に菅原くんが、口を開いた。
『ねぇ、神野さん、学校サボらない?』
菅原くんは笑顔でとんでもない事を言った。
『え?菅原くん、流石にそれはー…。』
私が言いかけると、菅原くんは言った。
『だって神野さん、すっごい暗い顔だからさ。さっきからどうしたの?』
え?私、そんな暗い顔してたんだ。
ああ、悪夢を見たからかと自分で勝手に納得した。
『バレなきゃオッケーでしょ?大丈夫だって〜。』
『いや…でも、』
『本当、…似てるなぁ。』
『えー?今、何て…言ったの?』
菅原くんは聞き取れないような小さな声で言った。
私がそう言っていると菅原くんが顔を近づけた。
『へっ!?。』
驚く私をよそに菅原くんは顔を近づけた。
かなり、至近距離まで顔を近づけた。
整ったきれいな鼻筋、目は遠くから見るとくりくりとしているが、意外と近くで見るとシュッとしていて、かっこいいなぁ。
菅原くんってきれいな顔しているんだなあと私は思った。
男女関係なくモテそう…。
心臓の音がバグバグと耳まで聞こえるくらいに高鳴った。
菅原くんは目あたりを見た。
若干、服装を見られた気もするが、それより私の顔を見た。
(近いっ、たかいこちゃんの時でも思ったけど、歴史学校の人は距離間バグッているの!?)
顔を2〜3秒見つめられた気がするが、すぐに私の方から離れた。
『す、菅原くん。どうしたの?』
私は、ドキドキしながら言った。
すると菅原くんは口を開いた。
『あ、ごめん。キモかったよね?』
菅原くんは慌ててそう言った。
『ああ、いや、全然…。』
気にしてないといえば嘘になるが、そこまで気にしていなかったというのは事実である。
『で、話の続きだけど、』
『うん。』
菅原くんは私の手を軽く引いた。
『神野さん、俺と一緒に外で勉強しない?』
そ、外で、勉強!?
どういう事!?
戸惑う私をよそに菅原くんは話を進めた。
『あ、そうそう!実は遊園地にはいろんな所に、勉強の要素が隠れているんだよ〜。』
…?
私は頭の中でクエスチョンマークが、どんどんと増殖して気持ちの悪い様子が浮かんだ。
『かみのさん、苦しそうだから、なんか昔の俺に似てたし…』
菅原くんが、なにかをボソッと言った。
『え?いま、何ー…』
何を言ったの?と、聞く前に菅原くんはまるで急いでいるかのように口を開き、『じゃあ!』と切り出した。
『でも、これはただの俺の自己満足にすぎないし。
神野さんはさあ、どーしたい?』
私の前で菅原くんは言った。
『私はー、本当は、もう勉強したくない。』
私の言葉を聞いて菅原くんが目を見開いたのが見えた。
『勉強なんて、どこで役にたっているのかなんてわからないし。』
私の口から言いたくて、ずっと言えなかった言葉がスラスラと出てきた。
すると突然、私の目からポロッと涙がこぼれ落ちた。しまった。菅原くんが見ている。泣いたらだめだ。
私は思わず腕で顔を覆った。
『じゃあ、もう勉強しなくていいんじゃない?』
私がそう言っていると菅原くんが私の腕を優しくのけて言った。
一瞬、菅原くんは私をまるで子供を見るような優しい目で見つめた。
そして私をヒョイッと軽々しく持ち上げた。
『す、菅原くん…?』
私は思わず声が出た。
『大丈夫だよ。いっつも頑張っているんだしちょっとくらいサボっても。』
私は菅原くんの言葉を聞いて目を丸くした。
『とっておきの場所があるんだ〜。』
菅原くんはそう言って窓を開け、そこからふわりと飛んだ。
5分後
菅原くんの言っていた場所とは、公園の河川敷だった。
な、なんで河川敷…?
キョトンとする私に菅原くんは口を開いた。
『神野さんってさあ、“ランドスタイナーの実験って知ってる?』
ランドスタイナー…?
聞いた事のない名前だと思った。
『血液型を最初に発見した人の事。ま、正確にはランドシュタイナーっていうんだけど。』
へぇ~
『この人が発見してくれたからー…。』
うん、くだらないなぁ。
そういう綺麗事は聞き飽きたんだよなぁ。
『勉強ってくだらないし、つまんないじゃん。』
『身近な例でいいから考えて見たらいーじゃん。草したら勉強が楽しくー…』
『勉強のどこがいいの?』
私はお腹の底から声を出した。よほど迫力があったのか菅原くんは身構えた。
『だったら……いみなんてないじゃない。』
『え?』
菅原くんが目を丸くしたのが見えた。それに構わず、私は続けた。
『じゃあ、勉強なんて意味ないじゃない!役に立たないし、私の今までやってきた勉強は無駄なの?』
菅原くんは目を丸くして私を見つめた。
『いや、無駄ではないんじゃない?きっと、どこかで役に立っているんだと思うよ。』
菅原くんは優しい口調で言った。私はそれを無視し、言った。
『どこかってどこ?私は本当はずっと勉強なんてしたくなかったのに!』
私がそう言うと菅原くんが目を見開いた。
『え?あ、ちょっ、神野さん!』
菅原くんがなにかを言ったが私はそれを無視して走り出した。
目の中から涙がポロッとこぼれ落ちた。
しかも、一度出てきてしまったものは止まらない。
私の目の前の景色がグニャッと歪んだ。
ああ、これは目の中から水が出てきて止まらないからだと私は悟った。
15分後
学校をさぼった挙げ句、さらに私は逃げようとしていた。清原先生には絶対に見つからないよう、さっと隠れながら動いた。
逃げ足、すり足、忍び足でたどり着いたのは図書室だった。
そういえば、菅原くんが入ったらいけない場所があるって言っていた気が…
まぁいいや。もう、全部どうでもいいや。
私はそう思いながら足を動かした。
色んな本があるんだなあと内心感心しながら私は回った。
なーんだ、入ったらいけない所なんてないじゃない。
すると、不意に本棚が変な位置に、おかれているのが1つあるのに気がついた。
『なにあれ…?』
『神野さん、そこはだめっ。』
『え。菅原くん?』
私が振り向くと、菅原くんが焦った顔で私の方へ向かっていた。
でもここで帰ったら、また勉強しなくちゃいけなくなる。それぐらいだったらー…
トン
私は一歩、前へ踏み出した。
『歓迎、歓迎、歓迎。』
中からは加工した人の声が聞こえた。
15分後
『あーあ、面倒な事になったなあ。』
菅原道真は神野の教室の教壇の机に頬杖をついた。
『なにが、面倒な事になったなーよ!あんたの仕事でしょうが。』
それを見た清原先生は、菅原を責める様な口調でいった。
『枕草子で結構、ひどい事書いている人には言われたくないなあ。』
『な、あ、あんたねえ!』
菅原はふと教室の端に目をやった。特に意味は、ないが考え事をしていたためでもある。
『そもそも、なんで目を離したの?それぐらいー。』
見ときなさいよという声を出しかけて止めた。あんまり菅原を責めるのはさすがにかわいそうにおもったからである。
『じゃあ、神野さんがどこにいったのかはわかるかしら?』
『んなこと俺に言われても。』
やっぱりこの少年は、顔がいいくせに生意気だとひそかに思った。ピキッと手から血管が少し浮き出た。
一方、神野は…
馬鹿だ…と私は心の中で悟った。ああ、なにをしているんだ。
私は今、謎の部屋にいて、見たところ普通の本棚といった感じで…。
強いてゆうならば本棚が高く、天井は晴天の、柄の物が、貼ってある事やらせん状に部屋が並んでおり少しイビツな事くらいだ。
(なーんだ、普通の部屋じゃない。)
そう思いながら私は右の部屋に進んだ。
『お母さん、ねぇ。』
『ねえ、知ってる?あの子ってー。』
『けがれているから近寄らないほうがいいよ。』
『ああ恐ろしい。』
若干、ひどい言葉が聞こえてきたが私は中が気になり思わず足を踏み出した。
『…?』
神野が入った先には真っ暗だった。
『ねえ、お願い、イメージを壊してよ。』
聞こえてきたのは声がかすれた女の子の声だった。
イメージ?壊す?なんの事だと思いながら神野は首をかしげた。
すると、神野の前にパアアと眩しい景色が広がった。
『え、なに?』
神野がそう言ったとほぼ同時に明るい世界へと引き込まれた。
そして、
私は何故か今私が生きている時代とは違う時代にいた。
『ここ、どこ?』
神野は困った顔をした。
周りを見渡すと、牛車(ぎっしや→貴族などの位の高い人が乗る乗り物の事)やきれいな色の袿(うちき)や平安時代の庶民の服装を着ている女性がいた。
(ええと、牛車があるという事はここは…おそらく平安時代?だろうか。)
(すっごい見られている気が…。)
それもそのはず、知らない女の子が道のど真ん中にいるのだから。さらに、平安時代にはなかった白シャツを下に着ているのだから、いぶかしけな目を向けられようが仕方がないのだ。
周りの視線が、痛いが、神野は、なんとか立ち上がろうとしてなにかにつまずいた。
グニャッ
え?
目の前に映ったのは固形の排泄物だった。
い、いやっ
そう思うよりさきに頭が下りた。そして排泄物がベチャッとおでこについた。
しかも周りには人の死骸らしいものがあちら、こちらへと広がっていた。
『ひっ。』
私は声をあげた。死骸の人肉を烏が食べていたからである。おそらく疫病か他の死因で、亡くなられたのだと思うが、たくさん雑に置かれているのだ。
人の死体なんだから、せめて丁寧に扱えばいいのに。
そこに一人、泣いている少女がいた。遺体は女の子より身長がやや高かった。
綺麗な顔の男性の袖をつかみ、しゃくりあげながら泣いていた。
『っ、ひっぐ、ひっぐ。』
『…え?どうしたの?』
私は立ち上がり、その少女に声をかけた。
すると少女は顔を見られる事が恥ずかしいのかうつむきながら泣き続けていた。
しばらくして、少女は顔をあげ、私の方を見た。
『く。』
『く?』
『くさい。』
『え?いまなんて?』
『くさい!!』
私はポカーンと一瞬、ショックで、固まった。
その時、人々が私と女の子を見ていることに気がついた。
『とりあえず、移動しようか。』
私はそう切り出した。
10分後
『あの、ごめんなさい。私、初対面の方にひどい事をいってしまって。』
『あっ、謝らないで。全然、気にしてないから。』
『いや、あの、本当にごめんなさい。』
そう言って女の子は頭を深々と下げた。
『それで、あの。』
女の子はもじもじとしながら言った。
『はい。』
『言いづらいんですが、おでこにー。』
『あああっ、分かった。水ってある?』
『水ですか?それならー。』
そう言って連れて来られたのは川だった。しかもその川にはたくさん人々の遺体があちらこちらにあった。
『ごめんなさい。これぐらいしかなくて。』
『いや、うん、だ、だ、大丈夫。』
『じゃあ、おでこ出してください。』
『え。いや、自分でやるよ。』
『全然気にしないでいいんですよ。それに自分の手がよごれるのは嫌でしょう。』
『いや、でも。』
『自分で人の排泄物をさわりたいですか?』
『う、それはその…。』
触りたくないというのが本心だ。でも、
『お、お願いします。』
私は女の子に素直にお願いした。
『はい。』
女の子は丁寧にあらってくれた。
それから女の子は手を洗い『仕事にいく。』と立ち上がりどこかにいってしまいそうになった。
私は女の子の顔を見た。やつれて、少し痩せきっているように見えた。
放っておけないと思った。
『あの、えっと、待って!』
『…はい?』
女の子がこちらを振り向いた。
『どこにって、…』
『主人の元ですが。』
しゅ、主人?この女の子は何を言っているのだろうか?
『顔、疲れてない?大丈夫?』
『ああ、心配してくださるのですね。お気遣い、感謝します。』
『では、私はこれでー。』
女の子が去ろうと足を踏み出した。私はその時、女の子の腕を優しくつかんだ。
『待って、私、あなたに助けてもらったし、私も何か恩返しがしたいの。』
私は、口を大きく開き、女の子を見ながら言った。
『恩返し…。なるほど。』
女の子は少し考える仕草をしながら言った。
『いいですよ。なんか面白くなりそうですし。』
『いいの?ありがとう。』
そんな事があってから10分後
『…、つきました。ここが主人のいる邸宅になります。』
女の子は、重暗い顔を一瞬、浮かばせたが、すぐ戻り、ニッコリと笑顔になった。
(私と似てるなあ。作り笑顔をするのって。)
私は一瞬すごく失礼な事を思ってしまったので、紛らわすために頭を横に振った。
すると、ぐぅぅ~というお腹の音が横から聞こえてきた。女の子は恥ずかしそうに顔をうつむけた。
(お腹、減っているのかな)
それから主人に会った。主人は平安貴族だった。平安貴族の男性や女性が沢山いた。
その中から一番偉そうな男性がいた。
その男性は色々な指示をだしていた。
『米を取ってこい。』
『◯◯に手紙を渡してくれ。』
偉そうに対してすごくないくせに、色んな我儘な指示を出していた。
それからしばらく経った頃だった。
宴会が、始まったのだ。
甲高い声でワハハと笑っておりうるさいなぁと思いながら見ていた。
よく見ると貴族の皿は人それぞれ数が違った。
貴族は数個の皿に少しだけ、手をつけ、それで食べるのをやめてしまった。しかも皿をよく見ると、野菜や肉はない。酢の物や魚などである。よくみると柿を干した干し柿があった。
焼いている料理はほとんどない。大体、蒸すか、酢の物である。
この頃は調味料が現代ほど発達していなかったのだろうか。
するとー
『ふぅ。』
『お腹いっぱいになったなあ。』
貴族達はお腹をさすりながら言った。
『鳥喰、いたしましょうか。』
とり…ばみ…?それって確か人が食べ残した料理を庭に巻いておいて、雀とかが食べに来るようにする事よね。まさか、それを人でやらないよね…?
『よし、入れよ。』
大柄で力が強そうな男性貴族が言った。お腹が膨れておりさらに少し臭いにおいがした。
貴族につかえている人々がその声を聞いてぞろぞろと入ってきた。
『え、あ、ちょっと!』
助けてくれた女の子が一心不乱に走り始めた。
その姿はまるで、食べ物を必死に追いかける呪われたー…というよりかは悪霊に取り憑かれた妖怪のようだった。
『よーし、いいな。あそーれ!』
私は貴族の行動に目を見開いた。
箸で料理をつかみそれを庭に放りやったからである。
え…
『こっちは俺のだ!』
『ちょっと、それ、取らないでよ!』
『こっちに、よこせや!』
『腹減っているんた!どけや、そこ!』
なにこれ…どういう状況なの?
『ほれほれ、そんなにあらそわぬな。こちらにもあるぞ。』
と大がらな男性貴族が左に投げながら言った。
他の貴族達笑っていた。なにが面白いの?
もちろんその中には助けてくれた女の子もまざっていた。
私は、思わず大がらな男性貴族のもとへ走り出した。
『ち、ちょっと待って!何しているの?』
『なにってとりばみだろう。下々のものに食べ物をあたえる…素晴らしい事ではないか。』
しもじも…?なんてひどい言葉を使うのだ。何様なんだ。この人は。
『いや、渡し方が問題なのよ!箸で食べさせるとかないの?そもそもなんで笑ってるの?何がおもしろいの?』
『あ?なんだ?』
そう言って大がらな男性貴族は声を荒げた。
『ひっ。』
『よくみるとお前、変な格好しているな。なんだ、その格好は。』
そう言って大がらな男性貴族は、拳を振り上げ私の手を逃げ出さないように強く掴んだ。痛い、強い、怖い。私は思わず目を瞑った。
私はその時、暗闇の中で考えていた。
私の人生って何だったんだろうか。
私の母は歴史学者、父は歴史オタクな大学教授だった。私は、二人とも有名で私はその二人の娘だ。 だから、私は変なイメージをつけられた。
"歴史学者の娘だって。"いいなあ、元から頭よくて。
みんなそう言った。
私が頭いいって。でも私は実は、頭がよくなんてない。私は人一倍要領が悪いし、理解するのも遅い。
「ことゆちゃんはなんで歴史がきらいなの?」
両親はそう言った。私は暗記するのが苦手でやった事はすぐ忘れてしまう。だから歴史が大嫌いだったのだ。
「他の科目はいいのにねえ。」
「何でもっととれないんだ。歴史のテスト、80点だぞ。平均は90点なのに。」
私の父は成績表を見ながら声を荒げた。
みんな勝手にイメージをつけて、イメージに反したら勝手に絶望して。
もう疲れたな…。
『暴力、はんた〜い』
私の耳に入ってきたのは菅原くんの声だった。
私は目を恐る恐る目をあけた。
『す、菅原くん!何でいるの?』
『なんでって…。助けにきたんだよ。』
私はふと、手にあった力がなくなっていることに気がついた。
菅原くんが手をのけてくれたのだろうか。私はポカーンとしながら見ていた。
『お、お前、もしかして…。』
『菅原道真!?』
『ソーだけど、俺ってそんな有名人だっけ?何で俺の名前知ってんの?』
『そ、それは…あんた、有名人じゃねえか!』
『右大臣だったし、もう死んでいるのになんでいるんだ!?』
『ん〜、まあ、死んで霊としてここにいるんだ〜。』
『ヒイ、幽霊じゃ!物忌みをせんといかん!』
『まあ、落ち着いてよ。それよりさーあ。』
菅原くんの声が一気に低くなった。
『なにしてたの。笑ってたけど。』
『そ、それは…』
流石に偉そうにしていた貴族は元右大臣を見つめて言った。
『と、』
『と?』
菅原くんは笑顔で聞いた。しかしその笑顔は怖かった。内心強い怒りを含めている笑いだった。
それから意を決したようにくちを大きく開けていった。
『とりばみじゃ!』
『ふーん、そう。』
菅原くんは呆れたような目で男性貴族を見つめた。
『これだから嫌いなんだよ。身分が高いだけで偉そうにするあなたみたいな人たち。』
『あ?なんだお前ー!』
菅原くんは胸ぐらを掴まれさらに上からあがる拳をさっとよけた。
さらに刀を出す男性貴族も数人いた。
『一応、言っておくけどさあ、最初に神野に手を出したのは、きみだからね。』
大がらな男性貴族にむかい、そう言い放った。
男性貴族が菅原くんに掴みかかろうとする。
その時、菅原くんは大きくジャンプをして男性貴族を飛び越えた。
『はっ!?菅原道真、どこにいる?』
『ここだよ。』
『えっ?どこだ?』
大がらな男性貴族は辺りを見回した。しかし、まわりには誰もいない。
まわりにいた男性平安貴族は目を丸くした。
『キャー、幽霊よ!物忌みをしないと!』
女性平安貴族は長い袖で顔を覆い、物忌みの準備をはじめていた。
その時ー、菅原くんの後ろで刀を持ち構えている人がいた。
今にも刀をだそうとしており、その手はわなわなと震えていた。
『す、菅原くん、あ、危ない!』
私は思わず声が出た。
『だいじよーぶ。神野は下がってて。』
そう言われ私は下がった。
『君さぁ、さっきからバレバルなんだよ。』
菅原くんは後に振り向いた。
『自分がされていやな事は人にしちゃいけません。この事、習わなかったの?』
『ひ、いっ。』
『なんでお前はそんな事言うんだ。書物には菅原道真は優しいって書いているのに!』
『俺が優しい?いや、まったく違うね!』
そう言って菅原くんは大がらな男性貴族の腕を掴み、思いっきり遠くへと投げた。
すぐに刀をもった男性貴族が菅原くんに襲いかかった。
菅原くんは刀を持ってないし明らかに不利なのは菅原くんなのにー…
菅原くんは刀を素早くかわし、また大きく飛んだ。
『先に仕掛けてきたのは君らだし。だから、今から、俺がやる事も正当防衛だよね。』
菅原くんはなにかをたくらんでいる顔をして言った。
菅原くんは空に対してくるっと一回転した。
す、すごい。どうやってしたらそんな動きができるの?菅原くん、かっこいいなぁ。
空を大きく舞った菅原くんに対して男性貴族は声を荒げた。
『う、うわっ。』
『お、おぬし、なにをする!?』
『何って…まあ自分の頭で想像してみてよ。』
男性貴族達の目には、にやりと笑った菅原くんが映っていた。
それから菅原くんは大きく足を振り上げ、それを頭に直撃させた。
『グ、グハッ。』
『グへッ。』
さらに菅原くんは低く一回転をして男性貴族の腕を掴み、思いっきり腕を振り上げた。
男性貴族達は少し遠くに飛ばされただけで屋外に行っているという事はないみたいだ。
『ふー、こんなもんかな。』
菅原くんは手をパチパチと叩きながら言った。
私は意を決してくちを開いた。
『…菅原くん!』
『ん。何?』
『あの、えっと…』
すぐには言葉が出なかった。菅原くんに思わず見惚れてしまっている自分がいたからだ。
私はバグバグする心臓の音を聞きながら言った。
『助けてくれてありがとう!』
私の言葉を聞いて菅原くんは、ポカーンとした顔になった。
『本当だよ。神野ってさあ、急に走り出すし、どこに行ったか分からなくなって…。とりあえず、急いで追いかけて見れば呪いの倉庫にはいってるし。』
『ぅぅ。』
私は痛い所をつかれ思わずめを瞑った。…というか呪いの倉庫ってなんなんだ。
『菅原くん。』
『ん?』
『呪いの倉庫ってなに?』
『ああ、入ったら呪われちゃう?みたいな感じなんだけど、まあ、歴史人物…特に身分が低い人たちの貴族に対する怨念、嫉妬、とかが沢山ある。だからあそこは危険だ。近寄らない方がいい。』
そうだったんだ。私は目を丸くして聞いた。
『人って綺麗な物事が好きだからさあ、だから歴史の書物は事実を盛って書いて、誇張して…、だから歴史の書物には嘘がいっぱいあるんだと思う。』
『嘘の裏で、イメージの裏で、きっと苦しんでいた人はたくさんいるんじゃないかな。』
菅原くんはなんだか深い事を言った。
『綺麗な物事のうしろはね、苦しんでいる人がたくさんいるんだよ。』
『じゃあ歴史って嘘だらけなの?』
私は菅原くんに詰め寄った。
『うん。俺はそう思ってる。』
私は菅原くんがそう言ってくれたのが嬉しくってほっとしたようにつぶやいた。
『…良かった。私と同じ考えの人がいた。』
頭の中で両親の言葉がよぎった。
「なんで歴史がきらいなの?」
「なんでもっと好きになれないんだ。こんなに素晴らしいのに!」
でも良かったな…。私、ずっと考えを認めてもらえらなかったから。
菅原くんは絶対に人の考え方を否定したりしない。
当たり前の事だけど、本当に嬉しかった。
ああ、そっか。ここでは、私の事を認めてくれる人がいるんだ。
『え。どういう事?』
『私、ずっと両親に歴史嫌いな事、理解されなくって苦しかったの。だから菅原くんは私と同じ考えで嬉しくって。』
私はそう言いながら嬉しくってえへへと、笑った。
菅原くんはそれを見てキョトンとした顔をした。
『…?まあいいや。神野が無事だったし。』
菅原くんは頭の後らへんをかきながら言った。
『じゃあ、帰ろっか。』
『うん!』
私はその言葉を聞いて笑顔になりながら言った。
するとー…
『待って!』
という声が聞こえた。
『…?』
私は後ろを振り向いた。するとそこには私の事を助けてくれた女の子がいた。
『ありがとう。ガツンと言ってくれて。』
女の子は私の目を見て言った。
『私、庶民だから貴族にずっと差別されたり税を不正に多く取られたり…してずっと苦しかったの。』
そうだったんだと私は目を丸くした。
『でもね、言ってくれてすっきりしたし嬉しかったの。本当にありがとう。えっとあなたの名前は?』
『神野言結です。』
『じゃあ、ことゆちゃん。本当にありがとう。嬉しかったよ。』
そう言って女の子はほほえんだ。
『あと…菅原道真さん!』
『え。あ、はい!?』
菅原くんは目を見開いた。
『ありがとう。あなたも。たおしてくれて。』
『…はい。どういたしまして。』
菅原くんは少し照れながら言った。
『まぁ、でも気をつけてね。また起き上がる可能性があるから。』
『はい!』
女の子は笑顔で言った。
『それで…もう帰っちゃうの?』
女の子は少し残念そうなしょぼんとした顔をした。
『まぁ、うん。』
私がそう言うと菅原くんはニコッと笑いながら言った。
『じゃあ、君もついてくる?』
『え。いいんですか。でもどこにー。』
『イメージを壊しに行くんだよ。平安時代は優雅っていう。だから君もついてきてくれない?』
『わ、わかりました!行きます!』
『じゃあ、行こっか。』
菅原くんは笑顔で言った。
歴史学校に着いて早々に清原先生や伊藤先生などの先生たちに見つかり何をしていたのかと聞かれた。
私と菅原くんは顔を合わせてこう言った。
『イメージを壊しにいっていたんです。』
あった事の一部始終を話せば少し怒られたが、どの先生も『よくやった。』と言ってくれた。
ただ女の子は少し歴史学校に戸惑っていてでも楽しそうだった。
私はその姿を見て微笑ましい気持ちが浮かんだ。
菅原くんの言っていたイメージを壊すという事がよくわからなかったので私はとりあえず菅原くんについていった。
しばらくして菅原くんについていくとついたのは図書室の“呪いの倉庫“だった。
『え。菅原くん、ここって呪いの倉庫じゃない?入ったら呪われちゃうよ?』
『んー、ま、例外もいくつかあるんだよね。イメージを壊す時とか。』
『そ、そうなんだ…。』
私はポカーンとしながら聞いた。
『言神様〜。やっほ〜。元気にしてる?』
菅原くんは、何もない所にきゅうに唱え始めた。
ことがみ様?
私の頭の中に?マークが浮かんだ。
『うん。それでね、うん。』
『あー、そっか。残念。まー、いっか。』
菅原くんが喋っている間に“ことがみ様“の姿が現われた。
ことがみ様はすごく美しく女性だった。
『……。』
しかしことがみ様はなにもしゃべらない。
しかし菅原くんは喋り続けている。
…?
私はそんな事を思いながら菅原くんを見ていた。
そしてしばらくするとドアがギィと開く音がした。
『言神様、ありがとね。じゃ、入らせてもらうね。』
『神野と君、ついてきて。』
『う、うん!いこう!』
私はそう言って私は菅原くんについていった。
『歓迎、歓迎、歓迎』
ことがみ様はそう言ってくれた。
トン
私は足を踏み込んだ。
私はそこに入った。
私達は、しばらく暗闇の中を歩いた。
『よし。君の人生を記した本を探そっか。それで…君の名前は?』
『寿草(ことぶきぐさ) 幸子(さちこ)。』
『幸子さんね。さ行だから…あ、あった。』
私が言うより先に菅原くんは動いてしまった。
そんな私を見て菅原くんは…
『今度から神野と俺がやるから、一応見ておいて。』と菅原くんは言った。
『せっかくだしこっからは神野にやってもらおうかな。神野、ちょっと来てくれる?』
『う、うん。』
私は菅原くんについていった。
『えっとねー…。』
菅原くんはそう言って後ろから私に近づいた。
(いや近い、近い近い‼)
私の頬は同い年ぐらいの男の子に近寄られたため少しだけ桃のような色になった。
(いやいやドキドキしてる場合じゃない!集中!)
『まず、イメージを壊したい人の名前を唱えるんだけど、今回の場合は幸子さんだから下の名前を大きい声で言って。』
『幸子ちゃん!』
幸子ちゃんは私に名前を呼ばれると驚いた顔をした。それから少し口角が緩み微笑んだ。
『はい。私が幸子です。』
と言った。
『それから、神野。“私が平安貴族の優雅なイメージをぶっ壊す!”って言いながら幸子さんの本を破って。』
『私が平安貴族の優雅なイメージをぶっ壊す!』
ビリッ
それからしばらくして幸子ちゃんの声が聞こえた。
『イメージを壊してくれてありがとう。』
それから少し経った頃に幸子ちゃんの声が聞こえた。
『あ…。』
私の前をよく見るともう幸子ちゃんはいなかった。
どこに消えてしまったのだろうか。
私がキョロキョロしていると菅原くんはこう言った。
『元の時代に帰ったんだ。幸子さんは。』
平安時代に帰っちゃったんだ。
『でも、生活、苦しくないのかな…。』
私がぽつりと呟くと菅原くんはキョトンとした顔をしたが、すぐに笑顔になった。
『大丈夫。上を見てみて。』
『上?』
私は上を見た。
青空の写真が貼られているところを見たいがうまく見えない。
すると菅原くんは私をヒョイッと持ち上げ、お姫様だっこの体勢を作った。
『よっこいしょっ。』
『え?す、菅原くん!?』
私は目を見開いた。下には階段や本棚がある、私が今までいた景色が広がっていたからである。
『こーしたら見えやすいでしょ?』
菅原くんはそう言いながら言った。
『あ、この青空の景色のしたらへんをみればいいかな。ここってイメージを壊したひとの世界とつながっててその人の来世が見れるんだ〜。』
菅原くんはそういった。
私は内心おもくないだろうかと心配しながら外の景色を眺めた。ああ、ここって青空の写真を貼り付けているだけだと思っていたがつながっていたんだ。
『えっと幸子ちゃんは…。』
どこにいるのか私には全くわからなかった。
『あ、いた!』
『本当?どこ?』
私は、辺りを見渡した。
すると幸子ちゃんの方からてをふってくれた。
幸子ちゃんは私達の方を見て微笑んだ。
幸子ちゃんは、テレビディレクターになっていた。
『記憶には残るんだよ。神野がやったことは。』
私は、その言葉を聞いて目を光らせた。
『多分、歴史ってそんなものなんじゃないかな。
嘘もたくさん入っているから嘘と真実を見分けるために学ぶんじゃないかなぁ。』
『…そっか。』
私は菅原くんの言葉を聞いて嬉しくなった。
ああ、そうか。勉強する意味を聞かれても誰もはっきり答えられる人はいない。だからみんな勉強するんだ。
きっと、歴史だけじゃなくて他の科目でも同じだ。
『やってて無駄な事は何ひとつないんだよ。』
ああ…そっか。
私の口角が緩み、私は嬉し笑いをした。
『ふふふっ。えへへ。』
『え?急になんで笑い始めたの。』
菅原くんはキョトンとした顔をした。
『嬉しかったの。』
『??』
『まー、いーや。これからよろしくね。神野。』
『うん!』
こうして私と菅原くんの歴史学校生活が始まったのである。
IMAGEBREK第一話
終わり
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