煌めくルビーに魅せられて番外編 吸血鬼の執愛

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***  ダブルベッドの上、俺の隣で横になっている瑞稀は、肩まで布団をきちんと被り、神妙な表情で話に耳を傾ける。 「俺たち桜小路家の血を引く者は、皆平等に吸血鬼になる資質を持ち合わせているんだ。しかもなにがキッカケで吸血鬼になるのか、未だに不明だったりする」  寝室に設置している間接照明のほのかな明かりが、不思議そうな面持ちをしている瑞稀を照らした。 「それって、アレルギーみたいな感じでしょうか。花粉症や食物アレルギーみたいな」  おもしろい瑞稀のたとえ話に、小さく笑ってしまった。 「確かに似ている。そんな感じだ」 「それじゃあいつ吸血鬼になるのか、予測ができませんね」 「そういうこと。俺が一族で吸血鬼をはじめて見たのは、5歳くらいのときだったか。泊まりに行った、祖父の家だった」  そのときのことを思い出してしんみりしたら、瑞稀は俺に寄り添うように体をくっつけてくれた。 「祖父に遊んでもらおうと、夕食後に書斎の扉をノックして中に入ったら、なぜか電気がついてなくてね、真っ暗だった。カーテンが閉められていない窓からの月明かりが、吸血鬼になった祖父を煌々と照らしていた」 「それってホラー映画で、ありえそうなシーンですね」 「ああ。見慣れない祖父の姿に、俺はハッキリと恐怖した。自分が襲われると思って、大声をあげたんだ。『こっちに来ないで化け物!』って」  ちなみに祖父が吸血鬼になったのは50代だと、あとから父に教えてもらった。  同じ血が自分にも流れていると自覚できる年齢になったとき、なんとも言えないおぞましさを感じた。化け物と叫んだ幼い俺が、吸血鬼になった俺に指をさすところまで想像した。 「マサさん、俺ね――」  考えに耽って口を噤んだ俺に、瑞稀が静かに話しかけた。 「はじめてマサさんを見たとき、化け物という認識がなかったんだよ」 「……ほ、本当に?」  平静を装えない、震える声で返事をした。 (彷徨っていた街中で、瑞稀に狙いをつけて彼の腕を掴み、ビルの隙間に引きずり込んだあのときの彼は、確かに恐怖という感情を示していなかったっけ)  食い入るように俺の顔を見つめて、瞳を揺らしていたのを覚えてる。 「本当だよ。俺を見つめるルビーのように綺麗なその目に、思わず見惚れちゃったんだ」 「瑞稀……」  俺に寄り添う細い体に、ぎゅっと縋りついた。何度目だろうか、瑞稀が告げるセリフで、痛いくらいに胸が絞めつけられたのは――。 「吸血鬼の俺を怖がらずに、受け止めてくれてありがとう」 「マサさんが吸血鬼じゃなかったら、俺たちは巡り合うことはなかったですよね」  俺を宥めるように、背中を優しく撫で擦ってくれる瑞稀のてのひらのあたたかみを、布地越しに感じた。 「ああ。結果的に俺は、吸血鬼になって良かったってことになるね」 「おいしくない俺の血を吸ってくれて、ありがとうございました!」 「ふふっ、本当にそれ。催眠にかからないのも、どうしてだろうね?」 「それなんですけど、吸血鬼のときのマサさんの目を見ながら、お願い事を聞いたときは、頭の中がほわほわするんですよ」 「ほわほわ?」  聞き慣れない言葉の意味がわかりかねて聞き返すと、俺の胸の中から顔をあげた瑞稀が、かわいい笑顔を見せながら口を開く。
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