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タエがドアを開けたときには、誰もいなかった。だが、ドア先に一通の封筒が置いてあった。
「受け取りをお願いすると言いながら、こんなところに置きっぱなしにするなんて。タチの悪い郵便屋もいたもんだ」とぶつぶつとつぶやきながら、手に取った。
封筒は、何やらゴソゴソと動く音がしているうえに、湿り気も感じた。
「宛名も差出人も書いていない。きっと、これはわたしに配達された物じゃない。放っておこう」タエはつぶやきながらも、何やら物騒な物が入っているような気もして、心が落ち着かなかった。
玄関先で、思い倦ねているといたずら子どもたちがやってきた。
「ばあちゃん、どうしたの?」
「うん。なんか変な封筒が家の前にあったんだよ」
「どれ?」
「これだよ」タエは子どもたちに見せた。
「開けてみたら」一番大きい子どもが言った。
「宛名がないし、何も書いてない。気味悪いしな…」
「でも、ばあちゃんの家の前にあったんやろ。じゃあ、ばあちゃんが中身を見てもいいやん」
「郵便屋さんが来ていたのやけどなぁ。ドアを開けたら居んかった」タエは子どもたち相手に疑問を話していたが
「ええやん。早く開けてみてよ」
「開けて」
「開けて」と子どもたちに囃し立てられ、タエは反射的に封を開けてみた。
すると、中から出てきたのはミミズの大群だった。
「あれぇー」
封筒から湿り気を感じていたのは、ミミズだったのか。タエは、封筒からはみ出してきたミミズが手に触れた瞬間、仰向けにひっくり返ってしまった。その時、ドアに頭を打ちつけ、身体中に電流が走ったかのような衝撃を受けた。小さい子なら、号泣していることだろう。
そんなタエを見た子どもたちは、助けるどころか
「わぁ、今年もやったね!」
「エイプリルフールだよ。ばあちゃん」
「バイバイ」
タエは、自宅玄関前でひっくり返ったまま、涙していた。
「また、やられた。思えば、郵便配達の声もおかしかった。耳が悪くなったから、声まで変に聞こえると思うたが、違った。ああ、悔しい…」
タエは、ひっくり返った痛みを超えて、怒りがふつふつとわいてくるのを感じていたのだった。
続く
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