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5.50歳 ~その2~
その3日後の、2024年8月15日。
裕也は、欅の木の下にいた。
妻の薫子は、埼玉の自分の実家に。そして娘は、友だちと会う約束があるとかで、都内の自宅に一人残った。
年に一度ぐらい、三者三様、羽根を伸ばすのもいいものだと思いつつの、夕方5時少し前。
10年振りの眺めは、少しも変わっていない。
違うのは、夕日と遠くの山並みが灰色の雲に隠れていることぐらい。
5時を過ぎた。
山からの一陣の風が、昼間の蒸し暑い空気を吹き払った。
博美はまだ来ない。
代わりに、遠雷が聞こえた。
(来ないのかな……)
20歳の同窓会の後で、ここで2人で話をしてから、10年ごとに、再会を繰り返してきた。
30歳の時、博美は結婚していた。
40歳になり、お互いに家庭を持つ身になった。
今、50歳。
(そろそろ終わっても、不思議じゃない。けれど、博美は旦那と、うまくいっているのだろうか……)
またひとつ、雷鳴が聞こえた。
今にも降り出しそうな、暗い空。
腕時計の針は、5時30分になろうとしていた。
ついにポツポツ来始めた。
(帰ろう)
傘を持たずに来ていた裕也は、坂道を急ぎ足で下った。
別れ道の所に来て、一人の若い女性と出くわした。そして、ビニール傘を差したその女性が、裕也を呼び止めた。
「初瀬川先生!」
「あっ、北川さん!」
「よかった、間に合ったぁ……」
軽く息を弾ませているその人は、北川成美だった。
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