5.50歳 ~その2~

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「どうぞ」  彼女は、手に持っていたもう一本のビニール傘を、裕也に差し出す。 「ありがとう。えっ、すごい偶然」  言いながら、傘を広げる。  フフッと笑う成美に、続けて、 「実家って、近くなの?」 「はい。この道を真っ直ぐ行って、10分ぐらいの所」  と指差すのは、20歳の時から、3度博美を見送った方向。  と思っているうちに、大粒の雨がどんどん激しさを増してきた。  加えて、稲光と大きな雷鳴。 「とりあえず、そこに入ろう」  裕也は、すぐ近くのパン屋を差した。  20台ほどが停められる駐車場を持つ郊外型の店は、10年前には無かった新しい店舗だ。  入ると、高い天井の中は広く、イートインスペースもあり、そこそこのお客が付いていた。 「危うくびしょ濡れになるところでしたね」 「ホントだね。ありがとう。お礼に奢るよ」 「ホントですか?やったぁー」  このシチュエーションに、若干テンションが上がっている二人は、適当に選んだパンとコーヒーをトレイに載せ、席に着いた。  そこで成美が、大好きだと言うメロンパンをパクリと食べながら、 「ホントは、もっと早く来るつもりだったんですけどね……」 「……?」  言葉の意図が分からない裕也は、シナモンロールにかぶり付きながら次の言葉を待っていると、 「いろいろバタバタしちゃって」  と彼女は言って、コーヒーを口に運んだ。 (そういえば……)  と、裕也は先日の成美との会話を思い出しながら、 「一周忌の法要だって言ってたね」 「はい。さっき、無事に終わりました」 「そう。お疲れだったね」  外は、あっという間の土砂降り。  道が川のようになっている。  二つ目のパンを食べ終えたところで、成美が突然、 「はい」  と、1枚の写真を、裕也の手元に滑らせた。 「えっ、何の……?」  その写真は、だいぶ色褪せていた。  何気なく見た裕也だったが、そこに写っている2人に、思わず息を呑んだ。  一人は学ラン、もう一人はセーラー服。  背後に、ぼんやりと中学の校舎。 「これは……」  確か卒業式の後、博美の友だちが、インスタントカメラで撮ってくれた、裕也と博美のツーショット写真だった。
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