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「どうぞ」
彼女は、手に持っていたもう一本のビニール傘を、裕也に差し出す。
「ありがとう。えっ、すごい偶然」
言いながら、傘を広げる。
フフッと笑う成美に、続けて、
「実家って、近くなの?」
「はい。この道を真っ直ぐ行って、10分ぐらいの所」
と指差すのは、20歳の時から、3度博美を見送った方向。
と思っているうちに、大粒の雨がどんどん激しさを増してきた。
加えて、稲光と大きな雷鳴。
「とりあえず、そこに入ろう」
裕也は、すぐ近くのパン屋を差した。
20台ほどが停められる駐車場を持つ郊外型の店は、10年前には無かった新しい店舗だ。
入ると、高い天井の中は広く、イートインスペースもあり、そこそこのお客が付いていた。
「危うくびしょ濡れになるところでしたね」
「ホントだね。ありがとう。お礼に奢るよ」
「ホントですか?やったぁー」
このシチュエーションに、若干テンションが上がっている二人は、適当に選んだパンとコーヒーをトレイに載せ、席に着いた。
そこで成美が、大好きだと言うメロンパンをパクリと食べながら、
「ホントは、もっと早く来るつもりだったんですけどね……」
「……?」
言葉の意図が分からない裕也は、シナモンロールにかぶり付きながら次の言葉を待っていると、
「いろいろバタバタしちゃって」
と彼女は言って、コーヒーを口に運んだ。
(そういえば……)
と、裕也は先日の成美との会話を思い出しながら、
「一周忌の法要だって言ってたね」
「はい。さっき、無事に終わりました」
「そう。お疲れだったね」
外は、あっという間の土砂降り。
道が川のようになっている。
二つ目のパンを食べ終えたところで、成美が突然、
「はい」
と、1枚の写真を、裕也の手元に滑らせた。
「えっ、何の……?」
その写真は、だいぶ色褪せていた。
何気なく見た裕也だったが、そこに写っている2人に、思わず息を呑んだ。
一人は学ラン、もう一人はセーラー服。
背後に、ぼんやりと中学の校舎。
「これは……」
確か卒業式の後、博美の友だちが、インスタントカメラで撮ってくれた、裕也と博美のツーショット写真だった。
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