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その友だちが、後から裕也にも郵送してくれて、今は実家のアルバムに仕舞ってある。
「えっ、これを、なんで北川さんが?」
「母です」
成美はそう言って、写真の女性に視線を落とした。
「えっ……」
その意味する事実を、裕也は悟った。
一周忌を迎えた成美の母とは、博美のこと……。
「裏を見てみてください」
成美が言った。
裕也が写真を裏返すと、そこには、もうだいぶ薄くなっていたが、黒いマジックで描かれた相合傘と、『裕也、博美』の文字があった。
さらに、その横に
『あなたのことが、ずっと好きでした』
の文言。そこだけは、まだ濃くて鮮明だった。
「去年母が、亡くなる直前に、私に託したんです。来年の8月15日の夕方5時、欅の木の下に、私と同い年ぐらいの男の人が来るはずだから、渡してほしい、って」
成美はそう言ってから、スマホを操作し、裕也に向けた。それは、毛糸の帽子を被り、すっかりやつれた博美の動画だった。
「初瀬川裕也くん……」
と言っただけで咳き込む彼女は、か細い声を懸命に絞り出すように、
「ごめん。来年の約束は、果たせそうもないな。今まで楽しかったよ。ありがとう」
そこでまた強く咳き込み、動画は終わっていた。
その夜遅く、永眠したのだと、成美は言った。
裕也の目から、涙がポタポタと落ちる。
「ちょっとごめん」
裕也はそう言って席を立ち、トイレに駆け込むと、思い切り泣いた。
ひとしきりして、席に戻ると、成美はコーヒーを飲みながらぼんやり外を眺めていた。
夕立はだいぶ小降りになり、山も見え始めている。
「もしかして……」
成美に声をかける。
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