5.50歳 ~その2~

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「……北川さんは知ってたの?」  彼女は、カップを片手に持ったまま裕也を見て、 「何がですか?」 「俺のこと」  成美は微笑を浮かべ、 「何となく」 「え、どうして?」  「それ」というふうに、視線を写真に向ける。 「えっ?全然違うでしょ、この頃の顔と」 「じゃなくて、裏の方」  「あっ」と思いながら、裕也はもう一度、裏の相合傘を見た。 「実家が小田原で、裕也さんっていう名前で、母と同い年ぐらいの男の人っていうところで……」  成美がニコリとする。 「……そうかぁ」 「それと……」 「……?」 「初恋の人は、今は優しい塾の先生なんだよって、母は言ってたから」 「えっ……」  35年も前の、中3時代。  一緒に学級委員をやっていた頃のことが、走馬灯のように駆け巡る。  新たな涙が頬を伝う。 「離婚してからは、よくその写真を見てましたよ」  成美がそう言って、愛おしそうに、中学時代の母の写真を見つめる。 「離婚されたの?」 「はい。でも、裕也さんには、そのことは言わないつもりだって言ってました」 「なんで?」と訊こうとして、飲み込んだ。答えは何となく分かる気がしたから。 「いつ、東京に帰りますか?」  急に成美が話を変えた。 「明日の午後には」 「じゃあ、よかったら、明日の朝、一緒にお墓に行きませんか?」 「それはぜひ。俺もちょうど行きたいと思っていたところだから」
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