6.50歳 ~その3~

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6.50歳 ~その3~

 翌朝の墓地は、前日の夕立が残してくれた爽やかな空気に包まれていた。 「初瀬川先生、私もあそこに行ってみたいです」  合掌を終えた成美が指を差す方向に、丘の上の欅の木が見える。 「いいよ。ここに連れて来てくれたお礼に」  裕也は微笑んで、欅の丘へとつながる一本道を歩き始めた。 「白血病だったんです、母」  並んで歩きながら、成美がポロッと言った。 「いつ、分かったの?」 「私が中学に入る少し前だって、母は言ってました」 「えっ、それなら……」 (10年前にここで会った時には、もう自分が病気だって知っていたんだ。だから……)  別れ際の博美の姿が蘇ってくる。まだ何か言いたそうに見えた、彼女の表情……。 「でも……」  と、成美が続けて、 「薬が効いて、すぐに落ち着いて。寛解っていうらしいですけど」 「うん」 「それから暫くは、普通の生活が出来てたんですけど、お父さんとは上手くいかなくなって……」  離婚してから、またすぐに病気が再発。入退院を繰り返すようになったのだと、成美は言った。  姓を園田に戻さず、北川のままにしたのは、仕事や学校での都合を考えてのことだとも。  そんな話をしているうちに、欅の木の下に着いた。
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