9人が本棚に入れています
本棚に追加
6.50歳 ~その3~
翌朝の墓地は、前日の夕立が残してくれた爽やかな空気に包まれていた。
「初瀬川先生、私もあそこに行ってみたいです」
合掌を終えた成美が指を差す方向に、丘の上の欅の木が見える。
「いいよ。ここに連れて来てくれたお礼に」
裕也は微笑んで、欅の丘へとつながる一本道を歩き始めた。
「白血病だったんです、母」
並んで歩きながら、成美がポロッと言った。
「いつ、分かったの?」
「私が中学に入る少し前だって、母は言ってました」
「えっ、それなら……」
(10年前にここで会った時には、もう自分が病気だって知っていたんだ。だから……)
別れ際の博美の姿が蘇ってくる。まだ何か言いたそうに見えた、彼女の表情……。
「でも……」
と、成美が続けて、
「薬が効いて、すぐに落ち着いて。寛解っていうらしいですけど」
「うん」
「それから暫くは、普通の生活が出来てたんですけど、お父さんとは上手くいかなくなって……」
離婚してから、またすぐに病気が再発。入退院を繰り返すようになったのだと、成美は言った。
姓を園田に戻さず、北川のままにしたのは、仕事や学校での都合を考えてのことだとも。
そんな話をしているうちに、欅の木の下に着いた。
最初のコメントを投稿しよう!