1. 20歳

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「実は、俺もそうなんだ」 「えっ、そうなの?」 「うん」 「なんだ、そうだったんだ。初瀬川くんこそ、楽しそうだったから、好きかと思ってたよ、こういうの」  博美は笑ってから、急に真面目な顔になり、 「あっ、ごめん。じゃあ、早く帰りたいよね?」  と言って立ち上がる。裕也は慌てて、 「いやいや。そんなことないよ……って言うか、俺の方こそ、園田さんを引き止めちゃってごめん……」  裕也も立ち上がって、すまない、と言うように両手を合わせる。  博美は首を振って、 「初瀬川くんとは、話したかったから」  と微笑んだ。裕也はホッとしながら、 「園田さん、裕也、でいいよ」 「……?」 「呼び方。初瀬川って、すごく言いづらそうだから」  と笑った。  若干、舌足らずな喋り方の博美は、『はつせがわ』が本当に言いづらそうだったのだが、本音は、 (名前で呼ばれたい)  だった。 「えーっ、恥ずかしいな」 「大丈夫。俺も裕也って呼ばれる方が好きだから」 「うん、分かった。頑張る。その代わり……」  と、彼女は裕也を見て、 「裕也くんも、博美でいいよ」 「えっ……分かった」  二人は微笑み合う。  いい雰囲気を感じながら、裕也は、中学時代から心に秘めていた博美への想いを、ここから改めて進めてみたくなっていた。 「博美……さん」 「……?」 「また、会えるかな?」  頷いてくれるのを期待した。と言うより、頷いてくれるものと思っていた。 が、彼女は少し困ったように視線を落としたままでいる。 「いるの?付き合ってる人」  恐る恐る訊くと、博美は軽く唇を噛んで、小さく頷いた。 「そっか。じゃあ仕方ないな」  心の中と裏腹に、爽やかに言って、街並みを見渡す。 「……ごめんね」  俯いたままポロッと言う彼女に、 「なんで。謝ることないさ。お互い、もう大学生なんだし」 「でも……」  博美が裕也を見上げる。 「……でも?」 「あ、ううん……」  再び視線を落とした。  少しの間の後、 「じゃあ、10年後」  裕也が明るく言って、博美を見る。 「……10年後?」  きょとんとする彼女に、 「そう。10年後の今日、この時間に、またここで会わない?それならいいだろ?」 「……うん」  彼女の顔に、微笑が浮かんだ。  10年後……30歳の8月15日。  決して堅くはない約束をし、裕也は博美と、丘の麓の別れ道の所で別れた。
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