2. 30歳

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2. 30歳

 20歳の同窓会の日からちょうど10年後の、夕方5時。  裕也は、欅の木の下にいた。 (来ないだろうな……って言うか、そもそも覚えてるかな?)  心の中で苦笑しながら、あの日と同じ、夕焼けの山並みを眺めていた。  と、登って来る人影があった。 「博美さん!」  思わず声を上げ、手を振ると、その人も顔を上げ、ぱーっと笑みが広がる。  小走りに駆け寄って来る彼女は、園田博美だった。 「来てくれたんだ」  気持ちが素直に言葉になる。 「はぁ、間に合ってよかった」  博美は第一声、息を切らせながらそう言った。裕也は笑って、 「大丈夫?」 「30になると、年を感じるね」  と言って笑う博美は、すっかり大人っぽくなっていた。  そんな彼女を一瞬見つめてから、 「忘れてるかと思った」 「えーっ、私の記憶力がいいの、知ってるでしょ?」 「あぁ……」  確かにそうだった。 学級委員の頃。彼女の記憶力に助けられたことが多かった。そんなことを思い出していると、 「里帰りしてるの。子供連れて」 「えっ……」  裕也にとっては、いきなり飛躍した話に、言葉を返せずにいると、 「はい、これ、お土産」  手に提げていた袋を差し出してきた。  中に、『萩の月』と書かれた包装紙が見えた。  ますます飛躍する状況に、 「結婚したんだ?」  まずそう訊くと、彼女は、 「うん」  とだけ言って、遠くの山並みに目を向けた。  裏切られたような思いが広がる。勝手だと分かっているけれど。 「そっか」  爽やかさを装いながら、 (そりゃそうか。30歳だもんな)  そう言う自分はと言えば……  東京の大学を出て、そのまま就職。今も都内で一人暮らしを続けている。  仕事は充実しているが、その分、時間の経つのは速く、気が付いたら30歳になっていた。  その間、彼女が欲しいと思ったこともなかった。  ただ、博美との約束だけは忘れずにいた。 「裕也くんは?」 「俺?」 「うん。裕也くんも……?」  軽く探るような目になる。 「いや、俺は独りだよ」 「……そうなんだ。もう結婚してるのかと思ってた」  博美はそう言って、フッと笑った。
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