3.40歳

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「結婚して、旦那は変わった」  博美はそう言った。  結婚前は、何かにつけ、博美のことを気にかけてくれているのが伝わってきた。  デートで、お昼にしようか、となった時でも、 「今日は、博美の行きたい所にしようよ」 「ううん。晴彦さんが食べたい物でいいよ」 「いや。前回、僕がどうしても食べたいからって、博多ラーメンの店に行ったから、今日は博美の食べたい物を一緒に食べたい気分なんだ」  なんて言ってくれたり。  またある時は、 「今日は、これ観に行こう」  と、ある恋愛映画のチケットを差し出してきた。 「えっ、いいの?恋愛物は興味ないって言ってたじゃん?」 「ほら、前に君、言ってたじゃん。公開になったら観たいって」  と、彼は半年以上も前に博美が呟いただけの言葉を覚えていてくれたのだ。  でも、それらはすべて、外面だった。  結婚後、いざ共同生活となると、彼は変わった。と言うか、内面を遠慮なく見せるようになった。  小さな事にも口を出し、自分の考えの正当性を語る。  博美が、毎週楽しみにしていたテレビの占い番組を観ようとした時も、 「そんな非科学的な将来より、今日何が起こったか、世の中の動きを知っておくべきだよ」  と言って、勝手にニュース番組に変えてしまったり。  独身時代から続けていて、いい感じだったサプリメントも、 「そんな添加物だらけの物、体にいいわけない。ちゃんと食事で摂らないとだめだよ」  なんて言ってきて。 「あんまり言われるから頭に来過ぎて、それなら晴彦さんが買い物から料理から、全部やってよ!、ってブチ切れちゃった」  と、博美が苦笑する。 「へぇ、そりゃたまらないね」  自分に置き換えても、息苦しくなる。 「子供のことでも……」  と、博美は続けて、 「勝手に私立の中高一貫校に決めちゃったんだよ。私は、それまでの友だちと一緒に公立中学に進むのがいいと思ってたんだけど……」 「そうなんだ。お子さんが行きたいって言ったんじゃなくて?」 「どの道がいいかなんて、小学生に判断できるわけないんだから、高校までは親が正しい方向へ導いてやる。それが務めだろ、って」 「博美さんやお子さんの気持ちとかは、あまり聞いてくれないの?」  と訊くと、博美は乾いた笑いをしてから、 「それがね、一応は聞くって言うか、聞く振りだけはするって言うか……」  と、顔を顰める。
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