3.40歳

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「あぁ、ひと通り聞いた後で、それはここがダメだから、こっちの方がいい、みたいな?」 「そうそう。まさにそんな感じ。裕也くんの言う通りだよ」  我が意を得たり、というように、膝をポンポン叩きながら頷く博美。  裕也も、昔の元気な彼女が戻ってきたことにホッとしながら、 「それじゃあ、ストレス溜まるよな」 「ホントだよ。言ってることが正論だから、よけいにタチが悪くって」 「あぁ、それキツいな。反論できないもんな」 「そう!そうなの」 「分かる。うちにもいるよ。そういう上司。いつのまにか、俺が間違ってるの?みたいな気分になってて」 「分かる!」  と、二人で笑い合った。  その後で博美が、 「男の人って、あんなに変わるもの?」 「ははは。男がみんなそうってわけじゃないけど、そういうヤツも確かにいる」 「裕也くんは違うね」 「うーん、どうかな?自分のことって、自分じゃ分かんないからさ。どうしよう、薫子に、博美さんと同じように思われてたら」 「いやいや。裕也くんは大丈夫でしょ」 「ありがと。そう言ってくれて」  二人は、今度は穏やかに微笑み合った。  夕日がだいぶ傾いてきた。  若干の涼しさを含む風に、真夏を過ぎたことを感じる。 「あっ、ごめん、遅くなっちゃったね。家族が待ってるよね?」  裕也が言って立ち上がる。 「そうだね……」  博美は、一瞬の間を置いてから、ゆっくりと腰を上げる。  二人でブルーシートを片づけた後で、裕也が、 「じゃあ、次は……」  と博美を見る。彼女も、 「10年後?」  軽く首を傾げて裕也を見つめる。 「……いいかな?」 「うん……いいよ、それで」  まだ何か言いたげな表情の中で、博美の口がキュッと結ばれるのを、裕也は見た。  丘の麓の別れ道の所で、博美が訊いた。 「いつまでいるの?」 「今夜帰る。明日、朝から授業なんだ」 「……そっか。大変だね」  フッと浮かんだ微笑が、あかね色に染まり、寂しそうに見えた。  実家へと帰っていく博美の後ろ姿は、なぜかさらに憂いを感じ、思わず「博美」と、小さく呟いた。
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