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カナリアがいる教室
作文の宿題を出します。
そう言った途端の、子供達の顔といったら。
「うそおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
「先生鬼!悪魔!」
「やだあああああああああああああああああああああ!」
「ふげえええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
「死ぬううううううううううううううううううううううううううう!」
「うわあああああああああん先生なんて不倫してざまあされちゃえばいいんだあああああああ!」
「うわああああああああああああああああああああああああん!」
教室はあっという間に阿鼻叫喚。不倫されてざまあされちゃえばいいんだって言ったのは誰やねん、と私は顔をひきつらせる。
なお、ここは小学校二年生の教室。不倫だのざまあだの、というものを読むような年ごろの子供達ではないはずなのだが。
「はい、みんな静かにするように!それと、先生のこと鬼とか悪魔とかざまあされろとか言った子はだーれーかーしーらー?」
「ひええええっ」
「いい?作文をみんなが嫌いなのはわかっています。でも、自分で考えたことを、ちゃんと文章にする能力って言うのはとっても大事なのよ?」
私は教卓の前に立ち、ぐるりと子供達を見回した。
真っすぐに自分を見つめ、真剣な顔でノートを広げている子が数名。彼等、彼女等は特に作文という宿題に不満を持っているわけでもないだろう。実際、そのあたりの子供達は作文の宿題を出しても絶対に締め切りを破ってこない。時間さえあるなら、授業中に終わらせて提出してくることも珍しくはない。
文字を書くのが得意な子と苦手な子がいるのもそうだし、思ったことがすぐ文章としてさらさら出てくる子とそうじゃない子がいるのも事実なのだろう。ただ、小学校の頃は“作文なんか死ね!”と喚くことが許されても、中学校より上へあがったらそういうわけにもいかないのだ。私は心を鬼にして言う。
「中学校、高校、大学って上がっていくとね。レポートの課題っていうのがどんどん増えるの。文章を書けないと、成績が取れなくて……留年しちゃう子もいるかもね?留年わかる?みずーっと同じ学年で、自分より小さな子たちと一緒に勉強しなきゃいけないの……結構ツラいわよ?」
想像したのだろう。喚いていた子達が静かになる。
文字を書く練習をしなければいけない理由はたくさんあるが、とにかく今は彼等にとって想像のしやすいイメージを持ってもらうのが重要だ。
作文がある程度書けるようにならないと、どうやら大変なことになるらしい。それだけでもわかって貰えれば十分である。
「それに、大人になると会社で、文章を考えて発表しなければいけなかったり、資料を作らないといけなかったり、大変なことがたくさんあるの。だから子供のうちに勉強しておかないといけません。AI使って書けばいいじゃんとか思ってる子もいるかもしれませんけど……そういう文章は、検索すればすぐにばれちゃうんだからね?そもそも、みんなには手書きで作文を書いてもらうので、AIにお願いすることはできませんよ」
「えええええええ」
「えーじゃない。さあっみんな、頑張って」
どん、と原稿用紙の束を教卓に置いて、私はにっこりと笑った。
「テーマは……昔話やグリム童話、童謡に関してみんなが思うことよ。どんな感想でもいいわ。書いてちょうだいね」
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