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立っている時と違って、椅子に座ると目線を合わせやすくなった。
よく見ると、白河君のボサボサ気味の前髪の奥には、素直そうな瞳がきらめいている。
「はい、紅先輩、わかりました」
小さな声だったけど、はっきりと返事をしてくれて、私は安心した。
『社会人として……』なんて、偉そうな言い方になっちゃったけど、白河君って案外イイコなのかも。
よかったぁ。
私はホッとして、新人指導を開始した。
白河君へパソコン上の操作や、色々な物品の場所、マニュアルに載ってないような細かな暗黙のルールも説明する。
「この顧客ファイルを開くには、パスワードが必要だからね」
「はい」
「そして、こっちのデータは基本的にプリントアウト禁止」
「はい」
「社外秘の情報の取り扱いには気をつけて」
「はい」
「外回りは電車か、社用車を使うけど、電車の交通費精算は一週間分ずつ申請するからね」
「はい」
私はずっと喋り通しで、喉がカラカラ。
「ちょっと、ごめん。お茶飲んでいい?」
「はい」
仕事の説明じゃないことにも合いの手を入れるように、返事をしてくれるけど、本当に聞いてるのかな?
白河君は全然メモを取らない。
「ゆっくり話すから、メモ取っていいよ?
今日はたくさん説明するから、覚えられないでしょ?」
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