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「紅先輩、暑いですか?
冷たい飲み物買ってきましょうか?」
そう言いながら、白河君は手元にあったクリアファイルで私のことを煽ぎ始める。
「あー、涼しいー……って、いい、いい。大丈夫だよ!
お茶もまだあるから」
一旦、涼しさを味わうように、目を閉じて風を受けた。
だけど配属初日の後輩に、暑いから煽がせるなんて図は、やっぱり冗談のノリでも良くないか。
すぐに白河君の手を止めさせて、ぬるくなったペットボトルを再び開けて飲んだ。
「……っく、紅先輩っ……」
相変わらず長い前髪のすき間から、私のことをジッと見ている様子の白河君は、少し顔が赤くなっている。
「え? 何?」
「いえ、何でもないです。
すみません、ちょっと紅先輩に……高まってきそうなんで、心頭滅却してきます」
白河君はすぐに席を立って、オフィスを出ていった。
「あ、はーい……?」
ん? 心頭滅却……?
何のこと?
だいたいの言葉の意味は分かるんだけど、何か違う意味があるのかなと、スマートフォンで調べてみても、『心頭滅却とは余計な雑念を払い、落ち着いた気持ちになること』ってしか出てこない。
それに、『高まる』って、何が?
煽いでくれたのを、冗談みたいに返したのが悪かったのかなぁ?
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