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「……髪型ですか。
お気に入りと言うか、目が隠れていた方が人から見られなくて、安心します」
白河君は自分の前髪をちょっと摘まんで、販促品を入れた紙袋を再びデスクの上に置く。
え? 人から見られないために前髪伸ばしてるの?
また白河君の予想を超えた返事に、ちょっと困りつつも提案した。
「だけどね、前髪が長すぎて目が見えないのって、お客様には印象よくないと思うんだ」
「はい」
相変わらず私の言葉を素直に受け止める端的な返事だが、真剣に聞いている様子は分かる。
「レディース用で悪いんだけど、ワックス貸すから。
ちょっと前髪上げてみない?」
「……わかりました」
デスクの引き出しに入れていた、可愛いパッケージのヘアワックスを渡すと、白河君はペコっと頭を下げて鏡があるトイレへと向かった。
そして、5分ほどして戻ってきた白河君に驚いて、口があんぐりと開く。
「……え? 誰?」
私のヘアワックスを返したくなさそうに、大事に両手で持っているイケメンは、小さなつぶやきも聞き逃さず生真面目に答えた。
「……白河 真雪です」
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