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もう残り少なくなっている、ピンク色で可愛い容器のヘアワックスをもらって、白河君は嬉しそうにしていた。
私はその様子に心配になりながらも、営業先のまるはなストアへ行く。
もう3年ほどの付き合いになる担当の千田さんは、冷凍・チルド商品を管理する係長さんだが、中学生と小学生のお子さんがいる主婦でもある。
結構ハッキリとモノを言う方で、『これおいしくなかった』とか、『今度の販促センス悪いよ』とか、厳しくもありがたい意見をくれる私のお客様だ。
「千田さん、こんにちは」
平日昼過ぎのスーパーの店内は、比較的空いていて買い物客も少ない。
「わ、すっごいイケメン。 新人さん?」
白い長袖シャツに、まるはなストアの赤いエプロンと三角巾姿で振り返った千田さんは、私の後ろに立っている白河君にすぐ目がいった。
「はい、そうなんで……」
私が笑顔のままで後ろを向くと、白河君は私から貰った柑橘系の香りがするヘアワックスの容器を握りしめて、匂いを嗅いでいる。
「し、白河君っ」
私は小声で白河君を制して、まるで巣立ちを見守る母のような気分で、ハラハラしながら千田さんに紹介したが、白河君は完璧な挨拶をした。
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