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「初めまして、レイエスフーズの白河 真雪と申します。
本日から営業部のリテールグループに配属になりました。
よろしくお願いいたします」
名刺の渡し方や、声のトーンや大きさは、まるで最初の新人研修の時に見せられた動画のお手本の通りだ。
そして最後にフワッと微笑む白河君に、千田さんの目はハートになっている。
「えぇー。やだ、すっごいかっこよくない?
桃花ちゃんから担当変わるの?」
「あ、いえ、白河はまだ新人研修の一環で、リテールグループにいるのは3か月だけなんです」
いつもより声の調子が高い気がする千田さんに、ちょっと笑ってしまいそうになるのを堪えた。
「あらまぁ、そうなんだ。
白河君、ぜひ営業に残って欲しいわー。目の保養になるもん」
とりあえず、ご挨拶はちゃんとできてよかったと、ホッとして白河君を見上げたら、上手に出来ていたはずの営業スマイルがもう消えている。
私と目を合わせた白河君に、口パクで「え・が・お」と言うと、またポケットからヘアワックスを取り出した。
匂いを嗅ごうとする白河君に、私は慌てて小刻みに首を振って制止する。
やっぱ、ワックスは返してもらおう。
行動がアヤシイ人過ぎる。
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