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「いえ、じいちゃん……祖父は期待してるみたいですけど、俺は特に会社を継ごうとか、出世とかは考えてなくて。
……だけど、上司か……」
最後はつぶやくように言った白河君はシャープな顎に手を当てて、固まってしまった。
あれ? 私、なんか聞いちゃいけないこと聞いちゃった?
黙りこんでしまった白河君に、ちょっと申し訳なくなる。
白河会長の孫だってことを隠しておきたかったみたいだし、たった1週間、厳密には5日間くらい仕事を一緒にした程度では、聞いちゃいけない事だったのかもしれない。
もしかして、白河君にとって家族の話はNG質問?
「ごめん、なんか立ち入ったことを聞いちゃったみたいで……」
私は下を向いて白河君に謝った。
「いえ、紅先輩、全然大丈夫です」
白河君は顎に当てた手を外してフッと微笑み、長い指でグラスを軽く持つ。
「俺の父は公務員……外交官で、母は専業主婦です。
父の仕事で、子どもの頃は海外で暮らしたこともありました」
意外な答えに驚いた私は、グラスを傾けてアイスコーヒーを飲む、白河君のきれいな喉仏がゴクリと動くのを見ていた。
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