プロローグ

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 金城大学短期大学部(きんじょうだいがくたんきだいがくぶ)2年生の 田上 七瀬(たがみななせ)(20歳) は美術棟キャンパスの樹の下でその人物と知り合った。  その人の名前は 井浦 惣一郎(いうらそういちろう)(45歳)油絵コースの教授だ。トレードマークは油絵の具で彼方此方が汚れたベージュの帽子。 「教授、なにをしているんですか」 「(あり)がね、大慌てしているんですよ」 「はぁ、蟻」  私たちはひざを抱いて地面の蟻を眺め、夕暮れまで無言の時を過ごした。 「君、じっとしているの好きなの」 「好きではないですけれど苦手ではないです」 「じゃ、僕の()のモデルになってみないか」 「ヌードは嫌ですよ」 「ちぇっ」  教授は陽射しが降り注ぐアトリエで私の肩を抱き締めた。 「僕には細君がいますよ」  惣一郎には (みどり) という名のパートナーがいた。
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