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夏休み。
東京行きの飛行機が、いよいよ離陸する。
重力を感じながら、巧はどんどん遠ざかっていく地上を窓から見て興奮する。
やがて飛行機は真っ白な雲を突き抜けて、ついに眼下に雲が見えるようになる。
「すごいね、巧くん」
と奏が、巧の座っている窓際に身を乗り出して、嬉しそうに言う。
こんな景色があったんだ、と巧は思う。
まだ知らないものが、これからどれだけ待っているのだろう。
ふと廊下側に眼を遣ると、三人掛けのシートの一番廊下側に座っている父と眼が合った。
見知らぬ世界に興奮している二人を、父は優しく微笑んで見守っている。
- 了 -
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