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 四月、春休み。  店から取ってきたばかりの真新しい高校の制服に身を包み、全身鏡の前に立った(たくみ)は叫んだ。 「何ですか、このチャラ男はーー!」 「チャラ男って……。そんなことないよ、巧くん、似合ってるよ」  兄の(かなで)がフォローしてくれるが、巧は納得いかない。 「どうして? 奏くんが着ると上品に見えるのに、僕が着るとチャラ男になる」  しくしく、と巧は泣き真似をする。  巧はこの四月から、一つ上の奏と同じ県立高校に通うことになった。  それは、亡き母の母校でもある。 「……僕、学ランのほうが良かったなぁ」  中学では詰襟の学生服だったのに、新しい高校の制服はブレザーだ。  しかも、薄茶色のブレザーに水色のネクタイ、グレーのズボンという、やや変わった制服である。 「巧は生まれつき、ちょっと髪が茶色いからなぁ。それもあるんじゃない?」  と父が言う。 「髪切ってみたら?」 「ええー?」 「この頃、巧はちょっとシュッとしてきたし、短髪も似合うと思うぞ」 「何ですか、それ。おだてても何も出ませんよ」  父などに親しげにしてほしくないので、巧は父には敬語を使うことにしている。 「……どうしてお父さんが君に何かを出させようとするんだよ。せっかく褒めてるのに」 「気持ち悪い」 「短髪にして、運動部にでも入りなさい」 「ほらねー。嫌ですー。僕が体育会系嫌いなの知ってるでしょ!」 「君はもうちょっと、集団の規律というものを身につけたほうがいいんだよ」 「いりません。なんで、たかが一個や二個上の先輩にヘコヘコしなくちゃならないの」 「そういうことじゃなくてさ。社会に出てから苦労するぞ」 「しません。僕、充分、協調性ありますから大丈夫」 「……まあ、君は、外面(ソトヅラ)ヨシ子さんだからなぁ」 「でしょでしょ」 「今のは褒めてないよ。そういうのは協調じゃなくて同調……」  父の説教を、巧は遮った。 「いいんです、僕はチャラ男でも! これから三年間のテーマは、チャラ男に決めました!」 「それはやめてほしいなぁ……」
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