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昨日、黙ってサボってしまったので、巧は重い足取りで美術室に向かった。
扉を開けると、栞菜が叫んだ。
「巧くん、来た! 昨日どうしたの。大丈夫だった?」
「ウケる」しか語彙がないのかと思っていた栞菜に真剣な眼で言われて、巧はたじろぐ。
「大丈夫、です」
「ミズハラナオミのこと知ってる?」
「……知ってます」
「やっぱり! それで落ち込んでるんじゃないのかな、て、しのぶと心配してた!」
「……すみません。ありがとうございます」
しのぶもやってきた。
「私もびっくりしたんだよ、昨日。何だか古いイラスト集見て、家で泣いちゃった」
と、照れ臭そうに苦笑いする。
「……僕も、です。僕も泣いちゃいました」
「そうだよね、そうだよね! あんまり急すぎるよ……。『ワーフェア』シックスティーン出るのに……。キャラデザ、変わっちゃうのかな。寂しいよ……」
言いながら、しのぶはハンカチでそっと涙を拭っている。
巧もまた涙ぐみそうになったが、ぐっと我慢した。こんな公衆の面前で泣くのは恥ずかしい。しかも女子ばかりなのだ。
先生もいたけれど、そんな雑談を止めもしない。
昨日サボったことも、先生からも部長からも咎められもしなかった。
ここは僕の居場所になるのかな、と、少しだけ巧は思った。
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