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 家に帰ると、珍しく父がいた。  父は休みの日でも、たいてい病院に行く。なのに、なぜ今日に限って居るのだろう。  巧は父をもう許しているのに、癖のようにぷいとそっぽを向いて、二階に上がろうとした。 「おかえり、巧」  父が機嫌を伺うように言う。  鬱陶しいなぁ、と巧は思う。 「昨日はごめんね、巧。お父さん、巧の気持ちわかってなかった。巧のこと、何も知らなくて悪かったと思ってる」 「……もういいです」 「あのさ、これ」  父が何かを差し出したので、巧はそちらを見る。 「何これ!」  思わず大声が出た。  父が差し出した冊子には、『199X ミズハラナオミカレンダー』の文字が見える。 「どうしたの、これ!」  父を凝視すると、父はびっくりしたように、どもりながら言った。 「お母さんの部屋にあったんだ。巧が持ってたほうがいいんじゃないかと思って」  落ち込むと母のアトリエにこもる父の性質を、巧は知っている。  ーー僕のこと、本当に心配してくれてたのかな……。 「すごいよ、これ。ありがとう」 「お母さんも、中学生の時から、その人のこと好きだったんだね」 「お母さんが」 「うん」  カレンダーと初期のイラスト集を、巧は受け取る。 「それからさ、」  と父は言って、ポケットに手を突っ込んだ。差し出した手には、鍵が握られている。 「これ、お母さんの部屋の鍵なんだ。君と奏くんには、もうこれを渡したほうがいいんじゃないかと思って」 「……本当に?」  巧は驚いた。ずっと閉め切られていたあの部屋を、巧にも解放するというのだ。 「でもお母さんの部屋は、お父さんの憩いの場じゃない」 「憩いの、て……。もう君たちも高校生だし、お母さんのこと、もっと知ったほうがいいのかな、て。それにお母さんの部屋にあるものは、特に巧には何かの役に立つかもしれないよ」  鍵を受け取って、巧は胸がじんと熱くなった。 「ありがとう、お父さん」
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