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 深夜、巧は興奮で眠れない。  奏と父の部屋の前の廊下をそっと歩いて、母の部屋の前に立つ。  もらったばかりの鍵で、その部屋のドアを開けた。  スイッチがどこにあるのかわからず、しばらく壁を手探りする。  ようやく明かりがつくと、目の前にずらりと並んだ大きなスケッチブックの数に驚いた。  ーーお母さん、本当に絵が好きだったんだな。  一冊取り出してみようとしたが、ぎっしり詰め込まれすぎていて、びくとも動かない。  次に、右手にある書棚に眼を移す。  棚は真ん中で仕切られていて、向かって右側には大きな本が並んでいる。料理の本や育児書とともに、デッサンや水彩画の技法書がいくつかあった。画集もある。ターナーやモネやシャガールの名前は、巧も知っていた。それから、巧の知らない日本のイラストレーターの本。  左側には文庫本が並んでいて、ほとんどが小説のようだ。日本の女性作家の名前が多いが、翻訳本もある。巧の知らない名前ばかりだ。  そもそも巧は、ライトノベル以外をほとんど読んだことがないから仕方ない。  ーーお母さん、外国のファンタジーやSFも好きだったんだ……。  もし生きていてくれたら、と思わずにはいられない。そうしたら、どんな本を読めばいいのか教えてくれたかもしれないのに。  巧は最近、ライトノベルに飽き足らなくなってきているのだ。  ーーそうだ。借りて行ってみようかな。どれが面白いだろう?  しばらく背表紙を順番に見ていたが、何だかどれも敷居が高く感じる。それに、父の許可を得たほうがいいような気がして、持って行くのはやめにした。  文庫本の下の棚には、CDも並んでいる。  これも、知らないアーティストの名前ばかりだ。  ーーでも、音楽だったら、知らない人でも聴いてみてもいいかな?  本よりは、敷居が高くない気がする。  巧は適当に一枚のCDを抜き出して部屋を出、鍵を掛けて自分の部屋に戻った。  
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