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巧は、隣家の祖父母の家のインターフォンのボタンを連打した。
プツッとインターフォンの繋がる音がして、
『何なの、巧。うるさいわよ』
と祖母の怒った声がする。
「あ、おばあちゃーん。おじいちゃんいる?」
『いるわよ。いま開けるから待ってなさい』
そう言うと祖母はインターフォンを切り、ややあって祖父とともに玄関に出てきた。
「なんだ、巧。俺に用か」
と祖父。
「おじいちゃん、囲碁しようよ、囲碁!」
「なんだ、小遣い稼ぎか」
呆れた声で祖父は言い、「上がれ」と巧に背を向けて座敷に入る。
ーーばれてる……。
巧は頭を掻きながら、祖父に続いた。
碁盤と碁笥を出し、巧が黒石を持つ。
「いくつ置くんだ?」
と祖父が訊いた。
巧と祖父には実力差がありすぎるので、対局はいつもハンデをつけてもらう。巧がいくつか先に石を置いて始める「置き碁」だ。
「五!」
と巧は右手を広げて突き出す。
「五?」
祖父は眉を顰めた。
「せめて七にしなさい。巧は弱いから、おじいちゃんつまらんよ」
「あ! 言ったな! 五でいい! 今日は絶対勝つ!」
「勝手にしろ。置きなさい」
巧は、決められた場所に五つ碁石を置く。
「じゃあ始めるか。勝たんと何もやらんからな」
「ええー!?」
「当たり前だろう。何なんだ、おまえは」
「先に言ってよ〜」
「男に二言はないな?」
「ひどい〜」
「何がひどいだ。勝つんだろうが」
そうして対局が始まった。
一時間が経つ。
巧は長考していた。
祖父が長い溜め息を吐く。
「もう終わってるよ、巧。おまえはなかなか終局がわからんな」
「はい。負けました……」
惨敗だ。素人の巧が見てもすぐわかる。
祖父は盤上を整理し始める。
「ねえ。おじいちゃーん」
「小遣いはやらん」
「そんなこと言わないでよ」
「何を買うんだ」
「え? ゲームと、イラスト集とー、CD」
「やっぱりくだらんものばかりだ。やらんやらん」
巧はむっとした。
「ひとの好きなものを、見てもないのに、くだらん、て言い方はないでしょ。おじいちゃんは性格悪いなぁ」
「俺は性格は悪くない。物事の価値をわきまえてるだけだ」
「だってー。決めつけないでよ」
巧はぶつぶつ言ったが、祖父は相手にしてくれない。
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