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巧は、先日の祖父との会話を父に話した。
「それにうちの病院のある場所は、ご先祖さまの土地なんでしょ? だからおじいちゃん、病院を継いでほしいって言ってた。そうしたら、自分のお父さんにも、おばあちゃんのお父さんにも、あの世で気兼ねなく会えるって」
「……おじいちゃん、そんな話を巧にしたのか」
父は神妙な顔をして、「あのね、巧。ちょっと座りなさい」と言う。
巧と父は、九十度の角度でダイニングテーブルに座った。
「ねえ。巧が優しいことは、お父さん、よく知ってる。巧がおじいちゃんを大好きなことも知ってるよ。でもさ、巧の将来は、巧が自分の本心をよく考えて決めなきゃいけないことなんだ。もし本心から巧が病院を継ぎたいって思ってくれるのなら、お父さんもたしかに嬉しい。でもおじいちゃんやお父さんを喜ばそうとか、そんな理由じゃダメなんだ。一生のことなんだよ。あとでお父さんやおじいちゃんを恨んで後悔しても、お父さん、その時には何もしてあげられない。したくてもできないんだ。巧が幸せになる道を本気で探して? お父さん、手伝うから。でも、巧の幸せをお父さんは決めてあげられない。わからないんだ。巧が自分で責任を持って決めるしかないんだよ」
「……」
「立ち止まったり、道を戻ったりしてもいいよ。巧が帰ってきたくなったら、お父さん待ってる。でもね、戻れない道もあるんだ。時間は進むだけなんだ。だから、今、後悔しないように真剣に考えて」
お母さんと約束したんだ、と父は言った。
「巧と奏を幸せにするって、お母さんと約束したんだよ。でもそれ以上に、お父さん自身が、巧の幸せを願ってる。だからおざなりにしないで、真剣に考えよう。一緒に考えるから。幸せを恐れないで」
僕、と巧は小さな声で言う。
「自分のことが、よくわからないんだ。絵を描いてて楽しいけど、美大に行きたいわけじゃない。ゲームを作りたいのかどうかも、本当はよくわからないんだよ。どうしてみんな、そんなにすぐにやりたいことを決められるの?」
「きっと見つかるよ」と父は言う。
「巧はまだ、世界のことをよく知らないんだよ。世の中にはいろんな仕事の人がいるし、いろんな研究してる人がいる。今はネットでもいろんなことが調べられるだろう。もし東大に行きたいのなら、まずは東大にどんな学部や研究室があるのか見てみたら? 他の大学も同じように調べられるし、巧の興味を引くものを調べよう?」
「……うん」
でも、病院はどうなるのかな、と巧は思った。お父さんやおじいちゃんの病院がなくなるのは嫌だよ、と巧は思う。
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