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帰りのバス停でぼんやりしていると、同じ中学出身のミッチーがやってきた。ミッチーの本名は、道晴という。
巧の中学は二クラスしかなく、市立だけど少し特殊で、小学校からそのまま持ち上がりだ。幼稚園からずっと知り合いの友人がほとんどで、ミッチーもその一人だ。
隣の学区との間に隔たりがあるせいで、高校に入ると、緑中出身というだけで田舎者扱いされる。
「巧、部活決めた?」とミッチー。
「まだ」と巧は答えて、「ミッチーは?」と訊く。
「俺もまだ。巧、一緒にサッカー部に入らねえ?」
「え、サッカーかぁ。運動部はなぁ。もっと楽なのがいいな。僕、本当はさ、さっさと帰って、ゲーム三昧したいんだよね。ゲーム部があったら入るのに」
「ねーよ、そんなの。俺も入るわ」
「だよなー。それに最近、絵を描いてんの。そうだ、ミッチー、僕のSNS見てよ。アカウント教える!」
「マジで?」
巧はスマートフォンを取り出して、SNSのアプリを開く。
「ところで巧、リュウに会う?」
「卒業式以来、会ってない」
リュウも同じ緑中出身で、幼稚園以来の巧の親友だ。彼は同じ高校には進学せず、高等専門学校に行ってしまった。
巧は言う。
「でもさ、僕、サキちゃんと同じクラスになったんだ」
サキちゃんとリュウは、中二の時から付き合っている。
「そしたらリュウのやつ、サキちゃんのことよろしく、なんてメッセージ送ってきたよ。僕、元気そうだから大丈夫だよ、て返事したけど、それ以来、メッセージも来ないなぁ」
「ふうん。巧、サキちゃんとしゃべる?」
「全然。でも、クラスの女子と楽しそうにしてるし、大丈夫じゃないかなぁ」
巧は昨日アップロードしたばかりの、巧の作ったファンタジー世界の主人公の絵をタップして、ミッチーに差し出す。
「へえ。上手いじゃん。おまえ、中学のときもゲームの絵とか、いっぱい真似して描いてたよな。テスト用紙の裏とかまでさ。そのくせ成績いいって、どういう勉強してんの?」
「えへん。僕は地頭がいいのだよ」
「相変わらずムカつく」
ミッチーは笑って巧の額を小突いた。
早速、自分のスマートフォンでアプリを開いて、巧のアカウントを検索してくれる。
フォロー申請が来ると、巧はもちろん閲覧を承認した。
「すげ。いっぱい描いてるじゃん」
「春休み、ずっとこれの練習してたんだ」
「へえ」
ミッチーは興味を持ってくれたようで、どんどん巧の投稿をスクロールして見ていく。
「でもなんか、顔と立ちポーズばっかだな」
「え」
「ファンタジーだったらさ、もっと戦闘シーンとか、動きのあるポーズのほうが良くねえ?」
「……そっか。そうじゃないと飽きるよね」
「まあ、飽きるっつーかさ。そっちのほうがカッコいいじゃん」
「うん……」
「おまえ、運動部イヤだったら、美術部入れば? 絵の練習できるじゃん」
「美術部」
そんなの考えたことなかった、と巧は思う。
ーーでも、いいかもしれない。
「ありがと、ミッチー。僕、明日、見学に行ってみる」
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