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 翌日、夕飯前に、匡久は巧と奏を連れて、父の征司の家に行った。 「ほう、巧がプラトンを読むって?」  征司は面白そうに笑って、書斎に案内してくれた。壁中が本棚になっている部屋で、分厚い何かの全集がたくさんある。  だが大きなデスクには、病院経営の本ばかりが積まれていた。 「これかな?」  と征司が差し出した本に、巧は身を引いて、 「ええー!」  と叫んだ。 「どうした?」  征司が戸惑ったように尋ねる。  巧が言う。 「こんな大きい本、学校に持って行けないよ!」 「家で読めばいいだろ」  と匡久が言うと、巧は首を横に振る。 「僕は本は、休み時間やバス停で暇な時に読むのです。それに重たすぎるよ、この本。家でも読めないや」  征司はがっかりした様子だ。  匡久は申し訳なくて巧に言った。 「わがままだなぁ。全集ってそんなものだよ」 「もっと薄くて小さい、文庫みたいなのないの?」 「文庫はあるよ。I文庫とか」 「それ何?」  匡久は密かに驚愕した。高校生にもなるのに、I文庫を知らないなんて。自分はやっぱり、巧をろくに教育してこなかったのだ。  ーー学校では習わないのかなぁ?  巧たちの学校に一抹の不安を覚えながら、匡久は動揺を隠して言う。 「古典がそろってるんだよ。今度、本屋に連れて行くよ」 「やったー!」 「明日、妙子さんが休みだから、夕飯食べに行って、本屋に行こうか」  妙子さんとは、お手伝いさんの名前だ。妻のまりえが亡くなってから、もう十年以上も夕飯を作って、掃除をしてくれている。  しかし最近は週に四日しか来てくれないので、妙子さんが休みの日は、匡久はたいてい早く帰って三人で外に食べに出る。  その時によく、食堂近くの本屋に行くのだ。  中学生の頃、巧は大量にライトノベルを買い込んで、一日三冊の勢いで読んでいた。だが、最近はその分野に飽きてきたようである。お小遣いを上げてやった分、「ラノベと漫画は自分で買ってね」と言ったせいかもしれないが、あまり本を読まなくなった。  古典や一般書を教えるのに、ちょうどいい時期なのかもしれない。
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