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次の夜、外で食事を済ませてから、三人は約束通り本屋に寄った。
匡久はスタスタ歩いて、子どもたちをI文庫の並んだ棚に連れていく。
「わあ、大人の本ばっかり」と奏。
「初めて来ました、こんなとこ」と巧。
なんとなく情けない気分になりながら、それを隠して匡久は言う。
「君たちがラノベや漫画を漁ってる間、お父さん、よくこの辺にいるんだけど、気づかなかった?」
「全然」
と二人は悪びれもせず言う。
匡久は思わず肩が落ちるのを感じる。
「あ、セネカがある。『生の短さについて』だって」
と、巧は素早く目当ての本を見つけ出す。
娯楽本が多い小さな本屋で、I文庫の棚は三段しか無い。
よくあったなぁ、と匡久が妙なことに感心している横で、巧は取り出した本をめくっている。
奏はそれを横から覗き込み、
「巧くん、難しい本を読むんだねえ」
と感心している。
「字が小っちゃい」
と巧は文句を言った。
「注文が多いね、君は。おじいさんじゃないんだから、見えないわけじゃないだろ。それくらいの本に慣れなさい。大学生になってから苦労するぞ」
「はーい」
渋々、という感じで返事をすると、巧は本を閉じて匡久の胸に押しつけた。
「何だよ?」
「買って」
「しょうがない子だなぁ」
匡久は財布を出す。
初めから、これくらいの本は買ってやるつもりだったから、いいのだが。
三人でレジに並んでいると、巧がいきなり「あっ!」と声を上げた。
「どうしたの」
「あれ見て!」
巧はレジ奥の壁を指さす。
巧の好きそうなファンタジー風の絵が描かれた大きなポスターが貼ってある。
「ミズハラナオミのイラスト集だ! 予約受付中だって! 予約しなくちゃ!」
「……それはいいけど、お父さん買わないからね」
「わかってますー」
べーだ、と巧は舌を出す。
会計を済ませると、巧はイラスト集の予約をしたい旨を意気込んで店員に伝え、腕まくりをして予約票を書いていた。
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