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ーー堀内先輩って、ちょっと可愛いよなぁ。
などと、巧は最近、時々思うのだ。
放課後の美術室で、巧は三枚目のセネカのデッサンに挑戦しながら、二年生の堀内しのぶの後ろ姿を盗み見て、ほんわかする。
ーー堀内先輩、早く休憩に入らないかなぁ。
昨日、予約したイラスト集の予約票を、早くしのぶに見せたい。
しのぶは二年生の中で、一番よく巧の面倒を見てくれる。
そして、同じ『ワールド・オブ・フェアリーズ』のファンで、そのゲームのキャラクター・デザイナー、ミズハラナオミのファンでもある。
ふだんは大人っぽいしのぶだが、『ワーフェア』の話をする時には、本当に楽しそうな可愛い少女の顔で笑う。
ーー僕たちって、趣味が合うよね。推しキャラもけっこう似てるしー。
巧はそんなことを考えながら、一人でにやにやする。
予約したミズハラナオミのイラスト集について、巧は早くしのぶと語りたかった。
でもまだ、しのぶは自分の絵に集中している。
ーー堀内先輩って、絵も優しい感じなんだよなぁ。
しのぶが今描いている絵は、草花に覆われた草原の中で、野うさぎが野いちごを見ている可愛い絵だ。
でもとてもリアルで、アクリル画なのに、日本画のような落ち着きがある。
ーーあんなに描けるのに、どうして美大に行かないんだろう?
と、巧は常々疑問に思っている。
四時半になると、しのぶは絵筆を置いて、うーん、と伸びをする。
そして、自分のカバンを開けて、マイボトルのお茶を飲み、財布を取り出した。
いつもしのぶは、この時間になると、十分ほど校内の散歩に出かける。
巧は慌ててデッサン用の木炭を置き、自分も立ち上がる。
「堀内先輩!」
しのぶは初めて気づいたように、巧を振り返った。
「僕、ジュース買いに行くんですけど、一緒に行ってもいいですか?」
「うん、いいよ」
やったね、と巧は心の中で密かにガッツポーズをし、急いで自分もカバンから財布を取り出す。
「しのぶー。あたしもジュース買って来て。桃のやつー」
と二年生の西口栞菜が叫んだ。
「オッケー」としのぶ。
栞菜は、しのぶに小銭を渡しながら、黒目がちの瞳で巧を見て、一瞬、意味ありげににやりと笑った。
ーーばれてる?
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