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 巧は、しのぶと二人で廊下に出て、階段を降りる。 「堀内先輩! 僕、見せたいものがあって」 「何?」 「これです!」  ピンク色の予約票を、巧は財布から取り出し、広げて見せる。 「え! イラスト集の予約票? 橘くん、予約したの!?」 「はい。昨日!」 「えー、すごーい」  しのぶの反応は予想通りだ。  巧は嬉しくなって言った。 「予約特典で、ステッカーが付くんですって。堀内先輩も、早く予約したほうがいいですよ。限定生産らしいですから」 「うーん……」  しのぶの反応は、急に鈍くなる。  あれ? と巧は思った。  しのぶは寂しそうに苦笑いする。 「それ、六千円もするやつでしょ? 私は買えないや……。お金ないもの」 「……」 「うちさ、母子家庭なんだ。ゲーム買うだけでも、母に嫌な顔されちゃうし。部活もあんまりいい顔されてなくって」 「え。そうなんですか」 「うん。母は本当は、私に商業高校行って、バイトとかしてほしかったみたいなのね。うちの高校、バイト禁止じゃない?」 「はい……」 「橘くんはいいよね。おうち病院なんでしょ? お父さん、お医者さん?」 「え? あ、はい。なんでそんなこと……」 「小野田先生が言ってた」  小野田というのは、顧問の美術教師だ。  ーーせ、先生〜。なに個人情報ばらしてるんですかー! 「橘くんも医学部行くんだってね。すごいなぁ。頭良くて」 「そ、それも先生が?」 「うん」  ーーまったく先生めー! 個人情報!! 「ぼ、僕まだ決めてないんです。医学部に行くわけじゃないですよ」 「そうなんだ?」 「はい。せ、先輩は? 美大志望じゃないんですよね?」 「うん、美大行きたいけど……。お金かかるじゃない? 一人暮らしとかも大変だし。まあ、栞菜みたいな才能もないしね。私、就職希望なの。公務員試験受けようと思ってる。安定でしょ? その方が母も助かるって言うし」 「そ、そうなんですか」 「うん」  巧は何も言えなくて沈黙してしまった。  すると、しのぶは明るく笑って話題を変える。 「橘くん、イラスト集買ったら見せてくれる?」 「もちろんです! 絶対、先輩に最初に持ってきますね!」
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