18

1/1
前へ
/56ページ
次へ

18

 巧は自分の部屋の勉強机に肘をつき、椅子をギコギコ前後に揺らす。  ーーよく「親ガチャ」とかって言うけどー、結局、僕って「当たり」を引いたんだろうな。お母さんはいないけど、なんだかんだでお父さん優しいし、お金も持ってるしー。奏くんいるし。  奏は、巧の心の支えなのだ。  美大に行きたいけど、と言ったときの、しのぶの何とも言えない寂しそうな表情が、巧の脳裏に焼き付いている。  うちも父子家庭なんです、などとは、巧にはとても言えなかった。  ーー堀内先輩を救う方法はないのかなぁ。僕が大人だったらな。……ああ! 僕、貧しい人や困ってる人を救う仕事がしたい!  巧は悶絶しながら、リュウのことを思い出す。 『サキちゃんをよろしくな』  などと送ってきた、入学式直後のメッセージ以来、リュウはなんだか冷たい。  時々、話をしたくて、『元気?』なんて送ってみるが、『部活で疲れたからもう寝る』などと返ってくるし、『遊ぼうよ』と送っても、『部活で忙しい』と返ってくる。  向こうからは絶対連絡してくれないし、最近は既読スルーされることすらある。  ーー高専て、そんなに忙しいのかな?  と、巧は寂しい。  幼稚園からずっと一緒の親友だと思っていたのに、こんなにすぐに離れて行かれるなんて。  ーー僕、もしかして、何かした?  考えてみるけれど、何も思い当たらない。  卒業式の日には、 「また会おうな」  と、泣いて抱きしめてくれたリュウなのだ。  それ以来、会っていないのだから、思い当たるはずもない。  巧はしばらく、メッセージアプリのリュウとの会話を、過去に遡って眺めていた。  ーーやっぱり、送ってみようかな?  と勇気を出す。そして、 『リュウ、元気? 学校忙しいのかな?  サキちゃんとは会ってる?  僕さ、実は、高校で好きな人ができたんだ。  今度、いつでもいいから、話できないかな?』  とメッセージを打った。  長らく迷ってから、えい、と気合いを入れて送信する。  ーー送っちゃった……。やっぱり、一番にリュウに相談したいよ。  そう思いながら、送ったあとのメッセージ画面をじっと眺めていると、階下から、 「巧くん、お父さん帰ってきたよ」  と、奏の声がした。  スマートフォンを部屋の充電器の上に置いて、巧はダイニングに降りていく。  リュウから返事が来ない気がして、返事を待ち続けるのが怖かったのだ。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加