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18
巧は自分の部屋の勉強机に肘をつき、椅子をギコギコ前後に揺らす。
ーーよく「親ガチャ」とかって言うけどー、結局、僕って「当たり」を引いたんだろうな。お母さんはいないけど、なんだかんだでお父さん優しいし、お金も持ってるしー。奏くんいるし。
奏は、巧の心の支えなのだ。
美大に行きたいけど、と言ったときの、しのぶの何とも言えない寂しそうな表情が、巧の脳裏に焼き付いている。
うちも父子家庭なんです、などとは、巧にはとても言えなかった。
ーー堀内先輩を救う方法はないのかなぁ。僕が大人だったらな。……ああ! 僕、貧しい人や困ってる人を救う仕事がしたい!
巧は悶絶しながら、リュウのことを思い出す。
『サキちゃんをよろしくな』
などと送ってきた、入学式直後のメッセージ以来、リュウはなんだか冷たい。
時々、話をしたくて、『元気?』なんて送ってみるが、『部活で疲れたからもう寝る』などと返ってくるし、『遊ぼうよ』と送っても、『部活で忙しい』と返ってくる。
向こうからは絶対連絡してくれないし、最近は既読スルーされることすらある。
ーー高専て、そんなに忙しいのかな?
と、巧は寂しい。
幼稚園からずっと一緒の親友だと思っていたのに、こんなにすぐに離れて行かれるなんて。
ーー僕、もしかして、何かした?
考えてみるけれど、何も思い当たらない。
卒業式の日には、
「また会おうな」
と、泣いて抱きしめてくれたリュウなのだ。
それ以来、会っていないのだから、思い当たるはずもない。
巧はしばらく、メッセージアプリのリュウとの会話を、過去に遡って眺めていた。
ーーやっぱり、送ってみようかな?
と勇気を出す。そして、
『リュウ、元気? 学校忙しいのかな?
サキちゃんとは会ってる?
僕さ、実は、高校で好きな人ができたんだ。
今度、いつでもいいから、話できないかな?』
とメッセージを打った。
長らく迷ってから、えい、と気合いを入れて送信する。
ーー送っちゃった……。やっぱり、一番にリュウに相談したいよ。
そう思いながら、送ったあとのメッセージ画面をじっと眺めていると、階下から、
「巧くん、お父さん帰ってきたよ」
と、奏の声がした。
スマートフォンを部屋の充電器の上に置いて、巧はダイニングに降りていく。
リュウから返事が来ない気がして、返事を待ち続けるのが怖かったのだ。
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