11人が本棚に入れています
本棚に追加
巧は部屋に帰って、まず一番にスマートフォンを見る。
リュウからのメッセージは来ていない。
アプリを開いてみると、まだ既読すらついていなかった。それをどう捉えていいのか、巧にはわからない。ただ寂しさだけが募る。
ーー僕が将来、どんな生活をしたいか、か。
この町で、ずっと過ごすことはできないのだと、そんなことが胸に迫ってくる。
ーー僕は、この町で、しのちゃん先輩と結婚してー、僕と奏くんみたいな兄弟の子どもを作る。それで、しのちゃん先輩みたいな女の子もいたほうがいいかな? 仕事は定時で帰れる仕事にして、子どもとたくさん遊ぶ。日曜日には、時々、家に戻ったり、リュウやミッチーと遊んだりする……。
それもいいけど、何かが違った。
第一、大学や専門学校に行くには、この町を一度は離れなければならない。
ーーゲームを作るなら、やっぱり東京の会社に就職することになるよね……。
なんだか遠いなぁ、と巧は思う。
ーー奏くん、第一志望は、東京にある大学だけど、本当に行っちゃうのかな。
この町と東京は、あまりにも遠く思える。
ーー一人でそんなところに出て行くなんて、奏くん、勇気あるよな。僕は何だか寂しいよ。僕はF市くらいでいいな。それで、お母さんの行ったK大に行く。F市から、この町まで、電車で二時間。
高校のホールには、去年の卒業生の進学先が、壁に張り出してある。
そんなことしていいのかなぁ、と思うが、東大や京大に行った人はいなかった。K大だって三人だけだ。父の出身大学であるN大に行った人は何人かいたけれど、N大医学部は一人だけだった。私立の医学部に行った人もほとんどいない。
父が、学校に頼るなと言ったのもわかる気がする。
ーーでも僕、何がしたいのかわからないよ。
自分の中で、やりたいことが矛盾しているのだ。
机の上には、取り寄せた専門学校のパンフレットが散乱している。
だけど、あのしのぶの表情を見てしまってからは、ゲームを作る仕事は、何だか色褪せて思える。
ーー困ってる人の役に立つ仕事って、どんな仕事かな?
巧にはわからない。
最初のコメントを投稿しよう!