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 巧は部屋に帰って、まず一番にスマートフォンを見る。  リュウからのメッセージは来ていない。  アプリを開いてみると、まだ既読すらついていなかった。それをどう捉えていいのか、巧にはわからない。ただ寂しさだけが募る。  ーー僕が将来、どんな生活をしたいか、か。  この町で、ずっと過ごすことはできないのだと、そんなことが胸に迫ってくる。  ーー僕は、この町で、しのちゃん先輩と結婚してー、僕と奏くんみたいな兄弟の子どもを作る。それで、しのちゃん先輩みたいな女の子もいたほうがいいかな? 仕事は定時で帰れる仕事にして、子どもとたくさん遊ぶ。日曜日には、時々、家に戻ったり、リュウやミッチーと遊んだりする……。  それもいいけど、何かが違った。  第一、大学や専門学校に行くには、この町を一度は離れなければならない。  ーーゲームを作るなら、やっぱり東京の会社に就職することになるよね……。  なんだか遠いなぁ、と巧は思う。  ーー奏くん、第一志望は、東京にある大学だけど、本当に行っちゃうのかな。  この町と東京は、あまりにも遠く思える。  ーー一人でそんなところに出て行くなんて、奏くん、勇気あるよな。僕は何だか寂しいよ。僕はF市くらいでいいな。それで、お母さんの行ったK大に行く。F市から、この町まで、電車で二時間。  高校のホールには、去年の卒業生の進学先が、壁に張り出してある。  そんなことしていいのかなぁ、と思うが、東大や京大に行った人はいなかった。K大だって三人だけだ。父の出身大学であるN大に行った人は何人かいたけれど、N大医学部は一人だけだった。私立の医学部に行った人もほとんどいない。  父が、学校に頼るなと言ったのもわかる気がする。  ーーでも僕、何がしたいのかわからないよ。  自分の中で、やりたいことが矛盾しているのだ。  机の上には、取り寄せた専門学校のパンフレットが散乱している。  だけど、あのしのぶの表情を見てしまってからは、ゲームを作る仕事は、何だか色褪せて思える。  ーー困ってる人の役に立つ仕事って、どんな仕事かな?  巧にはわからない。
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