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「へえ、巧が美術部に!」
父は遅い夕飯を食べながら巧の話に耳を傾けて、目を丸くした。
父の匡久は病院の院長をしていて、いつも帰りが遅い。
奏と巧の兄弟は、お手伝いさんが作ってくれた夕飯を既に二人で済ませていて、お風呂にも入ってパジャマ姿だ。
父が帰ってくると奏が父の夕飯をよそって支度をし、食事している父を囲んで三人で今日の出来事などを話す。
それが橘家のいつものスタイルだ。
「まあ、まだ決めてないんですけど。明日、見学に行こうと思って」
「いいじゃない。君は、小さい頃から絵が得意だもんな。お母さんが聞いたら、きっと喜ぶよ」
巧の母は、巧が四歳の時に、癌で亡くなった。
この地方で一番と言われる国立K大の、教育学部美術科を卒業したそうだ。
家には、居間と二階に上がる階段の壁に、母が描いたという風景画が飾ってある。優しい色調のパステル画だ。
「じゃあ、巧は、部活でもお母さんの後輩になるんだなあ」
父が感慨深げに言う。
巧はなんだかくすぐったかった。
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