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巧はまた、セネカの続きを読み始めた。
最初の内容と、少し違うことが書いてある気がした。最後まで読んでみよう、と思う。著者の意図を自分は誤解しているのかもしれない。
ーーでもなぁ。やっぱり僕、哲学書ばかり読む人より、泥にまみれて働く人のほうが偉いと思うよ。
さっき、巧はSNSを更新した。
老人の絵はやっぱり上手く描けなかったけれど、セネカの石膏像を写真に撮ってきて、それを見ながら何とかイラストを描いた。
主人公の少年と、老賢者が額を寄せて話し合っている絵だ。
そして、こんなお話を作った。
主人公の少年は、伝説の不老不死の薬『エリクサー』を探し求めている。
彼は森の奥に閑居している老賢者に出会い、エリクサーの在処を尋ねる。
老賢者は言った。
「付き合う人を選び、仕事を選び、自分の生を浪費しないようにしなさい。賢者の言葉を聴き、英知を求め、自分のために多くの時間を使いなさい。そうすれば、人間は充分な生の時間を持てる。それがエリクサーだ」
でも巧は、その話に何だか満足できなかった。
それで長いこと考えて、最後に、こう付け加えた。
少年は言う。
「ありがとう、老賢者よ。でも僕は、やはり欲にまみれた騒々しい世の中で、自分の時間を取られても、愚かでも、困っている人を相手にして生きていきたいのです」
そして少年は、老賢者の元を去り、街に戻る。
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