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 二階の自分の部屋に上がる時、巧は階段で立ち止まって、母の絵をまじまじと見た。  海を描いた、優しい水色のパステル画。  巧には、母の記憶がほとんどない。  ただなんとなく、とても優しい人だったこと、そして抱いてくれる手がいつも温かかったことはおぼろげに覚えている。  そしてそれだけに、母への憧れが強い。  ーーお母さんの後輩かぁ。  ちょっとわくわくしながら、巧は思う。  でももし、僕が美術科に行きたいなんて言ったら、お父さんはどうするのだろう、という考えが頭をよぎる。  父が院長をしている病院は、祖父が作った、その名も橘病院だ。  病院には後継ぎが必要で、特に父方の祖父は、巧が医者になることを強く望んでいる。  兄の奏は優しくて頭もいいけれど、少し気が弱いところがあり、医師には向いていないと父も祖父も思っているらしい。  それに奏には、医療機器メーカーに勤めて開発をしたいという確固とした夢が既にある。  父は巧に、 「自分でよく考えて、本当に行きたい道を選びなさい」  と以前言った。  けれど、巧が本当にゲーム・クリエイターの道を選んだら、病院はどうなるのだろう。  ーー結局、僕は医者にさせられるんじゃないのかな。  母の絵を見ながら、「お母さん、どう思う?」と巧は胸の内で問いかける。  母は答えてはくれない。
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