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栞菜(かんな)みたいな絵が描きたいのなら、こういう本とか見てていいよ」  別の二年生が、そう声をかけてくれた。  西口は、下の名前を栞菜というらしい。 「あ。あたしは、堀内しのぶ」  数冊の画集を棚から取り出してくれた二年生がそう名乗る。  少しふっくらした、色白で目元の優しい女性だ。  表情が大人びていて、女子というより女性と呼びたい感じがした。  持ってきてくれた画集はどれも、アニメの背景画の描き方だったり、流行りの絵師のファンタジーイラストだったりする。  巧は少し驚いて言った。 「美術室にも、こういう画集があるんですね」 「うん、こういうのを模写したり組み合わせたりして練習するんだ」と栞菜。「もちろん、石膏デッサンとかもやるよ」 「へえ」 「巧くんは、中学ではどんな絵描いてたの?」  いきなり栞菜に「巧くん」呼ばわりされた巧は、ややむっとしたが、気にしないふりをする。 「中学では別に……。我流で漫画の模写とかしてました」 「美術部じゃなかったの? どこ中?」 「緑中です。うち、美術部なかったから」 「えええーっ!」  と、栞菜は巧の言葉を遮って噴き出し、こう言った。 「緑! ウケる! 美術部ないんだ! めちゃウケる〜!!」  完全に田舎者扱いだ。  ーー何なの、このセンパイは。  巧が呆れていると、横から、しのぶが「ごめんね」と謝った。 「失礼だよ、栞菜。橘くんに謝りな」 「ごめん、ごめん。だってウケる〜。でも巧くん、田舎のわりにけっこうイケメンだね」  ーーそんなことは知ってます。そして「田舎のわりに」は余計です。僕はどこに出しても通用しますから!  巧は心の中でだけそう言った。
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