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街に現れる吸血鬼を討伐する事で、猟犬達は街の住人達に感謝されていた。食べ物の差し入れ等は珍しくない。
久しぶりの差し入れに、メンバー達も喜んだ。場の雰囲気を明るくさせようと努めるみたいに。
そんな中、バージルは一人うつ向いた。虚ろな瞳には、相棒の居ない暗い未来だけが見えている。
隣に居たジジイや斜め向かいに居るシャノンは彼を目敏く見ていたが、二人は何も言わない。
無理矢理前へ進ませる様に、時間は自然と流れていった。
─ ─ ─ ────
昼食を終えたバージルは、静かに自室へ戻った。メンバー達はまた外へ向かい、鍛練を続けている。
窓から眺めていると、剣を振るうシャノンの姿が目に飛び込んできた。仲間達と手合わせをし、剣技に磨きを掛けているみたいだ。
本来なら、シャノンの相手はレックスで、それを外で観戦するのが恒例だった。
槍と剣が競り合った時の金属音が、胸を熱くさせたものだ。
そんな心躍る一幕を見る事は、もう叶わない。そう思うと、今は胸が締め付けられる。
窓から離れると、バージルは床に広げていた仕事道具に目をやった。
投げナイフにライフル。これ等はレックスを援護する為に使用していた愛用武器だ。
ドアに背中を向けて座り、戦場では使用していないそれ等を手入れし始める。
近々任務に出る気持ちを作っておく為と、レックスとの別れの儀式のつもりだ。
乾いたタオルでライフルを丁寧に拭き、ベットに眠るレックスへ視線を送る。目覚めはしないが、普段と変わらない安らかな横顔だった。
笑みを浮かべていても喋る内容のせいで、バージルの眉は申し訳なさそうに下がる。
「なぁ、レックス。俺がお前と離れたら……お前怒るか? 少しの間だけだからさ……」
きっと、レックスはそんな事で怒ったりはしない。
それをわかってはいるけれど、彼から離れようとする自分を罰したくてそう口にした。
どうしても、言わなきゃいけない気がした。
「許してくれな」
明日までに、とは言った。でも、きっと早い方がいい。
武器の手入れが終わったら、病院への移送手続きをエリヤへ頼もう。
しんみりしながらも決意を固めたバージルは、また武器へ視線を落としたけれど。
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