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目が覚めたのは夕方頃。いつもならキッチンへ手伝いに行っている時間帯だ。
床で丸まって寝ていた筈なのに、今はレックスが眠るベットに上半身だけ突っ伏していた。
途中で起きて、自分で移動したんだとぼんやり考えていたが。
「んぅー……久しぶりにこんな寝たかもな…………ぁっ!」
いつもやっているレックスへのマッサージを数時間サボってしまった。
慌てて上体を起こし、早速取り掛かろうするが、違和感を感じる。
右手がレックスの胸の上にあって、バージルは硬い何かを握っていた。右手に視線をやる。
「え……」
握っていたのは、戦闘で使っているナイフの柄。
それは、レックスの胸に深く突き立てられていた。
彼の口元や胸からは血が溢れ、真っ白だったシーツがそれを吸い込んでいる。とても紅い、残酷な色だ。
「レッ……」
どういう事なのか、しっかり視界は捉えている。でも、頭は一向に理解しようとしない。
バージルは放心状態だった。
すると、突然ドアがノックされる。
素早くドアの方に目をやると、部屋に入ってきたのはマルテルだった。
夕方前にキッチンへ降りて来ないのが珍しいと思ったのか。不審そうに訪ねてきて。
「バージルさん、もう夕食がっ……」
部屋に足を踏み入れたマルテル。視線は、バージルの手元へすぐに移された。
惨状を目の当たりにし、屋敷全体に響き渡る声を彼は上げた。
何もかもを恐怖で支配され、抑える事が利かない。涙混じりの悲鳴だった。
「バージルさっ……それっ……!」
腰を抜かして涙を流す青年に指を差された事で、未だにナイフを握っていた事に気付く。
慌てて手を放したバージルは、誤解を解く為に慌てて首を振り、声を張り上げた。
「ちっ、違うっ! 俺は何もしてねぇよっ! これはっ!」
ただ、眠っていただけ。
本当にそれだけだったが、部屋に居たのは自分一人。そんな言い訳、誰が信じるだろうか。
無実を証明する事が難しい状況で、悲鳴を聞き付けた住人全員が部屋へ雪崩れ込んできた。
先頭に居たシャノンやエリヤも驚愕し、他のNo.持ちもショックを隠しきれない様子で。あまりの光景に嗚咽を漏らしたり、目を背ける者も居た。
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