30人が本棚に入れています
本棚に追加
真っ暗な空間に、見覚えのある背中があった。
手を伸ばすけれど、背中は遠退いていく。
一生手が届かない気がして、必死に彼の名を叫んだ。
「レックス……っ!」
叫びながら手を伸ばすと、身体の左側が突っ掛かった。
その反動で目が覚め、辺りを見回す。
窓の方を見上げると綺麗な満月が顔を出していた。
場所は変わらず、自分とレックスの部屋。壁とベットにもたれ掛かる様に眠っていたみたいだ。
左手には手錠が掛けられ、ベットの脚に繋がれている。
麻酔薬を打たれた後、そのまま部屋に隔離されたんだろう。
夜になったら、猟犬は近くの街の見回りに行かなければならない。
今日の当番はシャノンとエリヤ、それからNo.7とNo.8のペアだ。
見回りは必ず行わなければいけないし、この騒ぎを街の者に報せる訳にもいかない。
だから自分を一旦部屋に閉じ込めて、情報が漏れない様にしたんだろう。冷静にそう考えた。
「居ねぇって事は……あれは本当に起こったってことか……」
夢だと思いたかったけれど、いつもベットの上に居たレックスは居なくなっている。真っ赤なシーツはそのままで、残酷な現実をバージルに突き付けていた。
埋葬する為に、何処かへ移動させたんだろう。いつもの場所に立て掛けていた、彼の愛用武器もない。
大きな悲しみを感じる前に、彼を殺した犯人が自分だと疑われた。
あの時は理解する暇もなかったが、今はとてつもない喪失感が胸を占めている。
悔やみながら胸元の服を握り締め、今の状況を打開する策を探す。
「なんとか、皆にわかってもらえる様に説明しねぇと……っ!」
このままだと罪人として軍に引き渡され、重い処罰を科される事になるだろう。
まずは手錠を外そうと、腕を動かし始めた時。耳がなんらかの音を拾った。
何かが擦れて少しずつ近付いてくる、不気味な音だ。廊下の方から聴こえていた。
「足音か……?」
不審に思いながらその音に意識を向けると、ゆっくりドアが開き始めた。
「バージル……」
ドアから顔を出したのは、No.10だった。
最初のコメントを投稿しよう!