闇に堕ちた先

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「えっ! お前っ、それどうしたっ!?」  足取りはおぼつかない様子で、移動は壁を伝いながら。  それに、衣服は真っ赤に染まっている。何度も刺されたらしい深い傷が遠目でも確認出来た。  立って歩けているのが不思議なくらいの重傷だ。  バージルの元に辿り着いたNo.10は崩れる様に膝を着き、震えた手付きで手錠に鍵を差し込んだ。  バージルの手首が自由になると、消えてなくなりそうな声で彼は告げる。 「血の匂いを嗅ぎ付けて……吸血鬼が……敷地内に入ってきた」 「えっ!?」  吸血鬼達は夜になると動きが活発になる。レックスが死んだタイミングが悪かったんだろうか。  それでも、猟犬(ハウンド)が大勢居る屋敷に吸血鬼が来るのは自殺行為に近い。知能の低い下級か、よっぽど強さに自信のある中級の命知らずか。  どちらにしろ、前例のない危険な状況には変わりなかった。 「お前は逃げろ……シャノン達が帰ってくるまで……多分もたな……っ」 「え……おいっ! しっかりしろっ!」  限界を越えていたらしいNo.10は、詳細を告げぬまま床へ倒れ込んだ。  震える手で揺すっても、目を覚ます事はなかった。 「なんでっ! っぅー!」  No.持ちのメンバーの中で1番下位だが、彼は決して弱くはなかった。自分と同じく、相棒のサポートに付いて切磋琢磨していた仲間だ。  一緒に暮らしていた奴が目の前で突然動かなくなり、胸を貫かれたみたいな衝撃があった。  けれど、ここでおとなしくはしてられない。  唇を噛み締め、強い怒りを(たぎ)らせながら、バージルはドアの方を睨んだ。  立ち上がって、素早く愛用のライフルを手にする。  引き出しにあった弾倉をライフルに装着。素早い動きでボルトハンドルを前後上下に操作し、銀の弾丸を装填。  替えの弾倉はウエストポーチに忍ばせ、太もものホルダーにナイフを差した。 「よしっ」  戦闘態勢を整えると縦に銃を持ち、駆け足で壁に背中を張り付ける。  そして、半開きだったドアを勢い良く蹴り開き、廊下に出た。  銃口を階段側に向けるが、誰も居ない。  安心はせず、神経にピンと糸を張る。    緊張感を持ち続けながら全部のドアを開け、注意深く中を確認した。
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