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暗闇で妖しく光るブラウンの瞳に、声を震わせて問い掛けた。
「あんたが……殺ったのか……?」
違うと言って欲しい。
そう願うバージルの耳には、意外な答えが返ってきた。
「儂が殺った様なものかもしれん……」
「どういう意味だよっ」
警戒心が増し、銃を支える左手に力が入る。右手の人差し指も、慎重に引き金に引っ掛けた。
「こういう意味じゃ」
屋内だと云うのに、ジジイの足元からは霧が立ち込めた。やがてそれは、彼の全身を覆い尽くす。
霧によって姿が隠れたジジイは、逆に存在感が増した様に思えた。更に、立ち上がった彼の背丈はバージルを優に超えた。
霧が薄れてくるとジジイの姿が露になったが、最早別人だった。
白髪で薄かった髪は月明かりで銀色に輝き、頭皮が見えない程の毛量へと変化。男性らしくも細い指先で優雅に掻き上げられ、額との境がくっきりわかる髪型に変貌を遂げた。
ブラウンの瞳は、宝石の如く紅い色へと変化し、妖しくも美しくこちらを惹き付けた。
額や目尻の皺、頬の弛み等は一切ない。若々しい肌と彫りの深さ、スッとした輪郭が見事な美貌を作り上げている。
ジジイが身に付けていた衣服は床に落ち、産まれたままの姿で彼は立っていた。贅肉のない、引き締まった美術品の様な身体で、今は大人の色気だけを身に纏っている。
さっきまで目の前に居た、ジジイの面影はない。
ただ、否応なしに惹かれる美しい姿は、バージル達が敵と見なす者の特徴だった。
「吸……血鬼……」
「そうじゃ」
声も、老人時の掠れたしょぼしょぼ声ではない。よく通る低い声で、口には出さないが男前だった。
「昔の事は覚えておらんと言ったが、儂の名はアルカード・ブラム。三百年は生きておる、純血の吸血鬼じゃ」
「『純血種』って……しかも、アルカード・ブラムだと……」
バージル達が普段戦っているのは、吸血鬼の血を飲んで吸血鬼になった人間。それが云わば『混血種』。
吸血鬼の力で身体能力が急激に上昇した彼等もなかなかの強さを持つ。
しかし、なんの混じりけもない吸血鬼そのものの血を持つ『純血種』は、全てが計り知れない。
人間を惑わせる美しさも。血で武器を生成する精巧さも。強さ自体も。全てが規格外の存在だ。
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