闇に堕ちた先

7/7
前へ
/109ページ
次へ
 おかしいとは思っていた。  自分がレックスを手に掛ける事は絶対ないし、眠っていた自分がベットに移動していたのも不可解。  考えれば、すぐに出てくる答えではある。  が、仲間がそんな事をする筈ないと、バージルは最初から除外していた。 「いったい何言っ……」 「美味い方の匂いっ!」  次々と告げられた言葉の数々について、問い詰めようとした時。  屋敷内では聞いた事がない、甲高くも耳障りな声が後ろから届いた。  急いで振り返ると、白い肌をした血塗れの男が立っていた。古びた装いで、紅く染まった剣を持っている。 「中級かっ!」  すらすらと人語を話している様子と、まずまずの外見からそう位置付けたバージル。直ぐ様そいつに銃を向けた。  中級の吸血鬼はニタニタと笑い、剣を引き摺りながらゆっくりこちらへ向かってくる。 「久々に大量の血にありつけると思ったら。まさか美味い方も居るとはっ……クククッ」 「美味い方……?」  理解の難しい言葉を再び言われ、怯んだ一瞬。 「今日はついてるっ!」 「っ!?」  俊敏にこちらへ踏み込んできたから慌てて発砲したが、首を捻った相手に軽々とかわされた。  相手との距離は、数センチ程。  間合いに入られ、殺されると思った矢先。バージルの後方から鎖武器が跳び出した。  鎖がしなると、先端の刃物が目の前の吸血鬼に振り下ろされた。相手は一瞬で真っ二つ。 「へっ……」  目の前に居た吸血鬼はバランスを失い、物の様に両側へ倒れた。  唖然とした後、後ろを振り返る。  吸血鬼を切り裂いたらしい銀色の鎖は、アルカードの指へと吸い込まれていった。  指先から血を滴らせている元ジジイは、不愉快そうに床を睨み付けていて。 「まったく。勝手に人の領域に足を踏み入れて、儂の孫同然の者達を殺すとは……これだから今時の吸血鬼は好かん」  全裸の男が、容姿とずれた口調で喋り、同類の男を葬った。  その光景全てが、バージルにとっては異様。  アルカードと瞳が合うと、今度は自分の番だと覚った。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加