急拵えのパートナー

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「お前も読んでみろよバージル! 面白いぞ!」  ベットに座りながら本の内容について熱く語る相棒に、バージルは床から返事した。 「俺はいいよ、頭痛くなりそうだから」  ナイフを厚布で磨き、相手の熱気を軽く受け流す。  レックスはそれを気に留めず、けろっとしていた。 「そうか、お前は本読まないもんな」 「レックスは毎日の様に読んでるけど、面白いのか? 実在した純血種の話なんだっけ?」  話を振ると、レックスはまた本に視線を戻し、楽しそうにページを捲った。 「そうなんだ。二百年程前に名を馳せた吸血鬼で、名前はアルカード・ブラム。殺した人間の数は百を越えたと云われてて。そいつと、猟犬(ハウンド)の戦いを記した本なんだ」 「百人以上って……極悪非道じゃんか……」  とんでもないと顔をしかめるバージルに、レックスは(なお)も瞳を凛々とさせて語る。 「アルカード・ブラムは自由自在に鎖を操る最強の吸血鬼で、同族も恐れた存在らしい。突然行方不明になったらしいが……生きていたら戦ってみたいな」  叶うかわからない希望を話す彼に視線を移し、バージルはもしもの事を考えて笑った。 「お前なら純血種にも負けなさそうだけど、もう死んでるんじゃないか?」 「会ってみたかったけどな。敵ではあるけど……会えたら嬉しいな」  顔を上げ、子供みたいにわくわくした顔で想いを馳せるレックス。  窓から降り注ぐ陽光に照らされたいつかの相棒は、とても光輝いて見えた。  ─ ─ ─ ────  もうこの世に居ない相棒が語っていた吸血鬼が、目の前に居る。  勧められた本は読む事がなかったが、きっと本通りの人物なんだろう。  怯えた表情で出方を窺っていると、ふっと相手は口角を上げた。 「なんじゃ。いつもは生意気そうな口ばかり利くのに、随分おとなしいのう」  腰を屈めてこちらの顔を覗き込むアルカードは、やはりジジイの面影はない。  しかし、瞳の温かげな雰囲気が少しだけ似てる様に思えた。  用心しながらも、会話を試みる。 「人間、百人殺したんだろ。吸血鬼達からも恐れられてたみたいだし……あんたにとって俺は敵じゃねぇだろ。殺るのは簡単な筈だ」  アルカードは目を丸くした後、表情を厳しくした。不快と取れる顔で後頭部を掻いている。
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