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「はぁ……猟犬の教育には困ったもんじゃ。嘘を教えおって……」
「嘘?」
「儂は百人以上の女の血は吸ったが、人を百人も殺しておらん。それとは逆に、吸血鬼を殺した数の方が多いかもしれん」
「は?」
聞いていた話と違うし、知らなかったジジイの一面を垣間見て困惑した。
「大方、意中の者が儂に心を奪われたか、血を吸われただかした男共が嫉妬に狂って本を書いたか。猟犬をよく見せる為に脚色を加えたんじゃろうが……孫に誤解されるのは不愉快じゃ」
「じゃあ……最強ってのも違うのか?」
「それはまた違う話じゃ。吸血鬼の中で、人間好きの儂を狂っていると揶揄し、最狂と言っていた者達が居たんじゃが。一部の人間が勘違いして広めたんじゃろう。その辺の者に負ける気はせんがな。兎も角」
アルカードは、床に座り込んでいたバージルの腕を力強く引っ張り、立たせた。
「お前さんを殺す気はない。殺す気なら、出会った頃にしている。儂が吸血鬼である事を隠してここに居たのは、人間としてここで死にたかったからじゃ。今はもう叶わないかもしれんが……猟犬に対して敵意はない」
「人間として死ぬって……」
いろいろと起こり過ぎて、バージルの頭の中は処理し切れない事ばかり。
それでも、アルカードは今やるべき事の道筋を示してくれた。
「それより今は、いち早く平穏を取り戻すのが先じゃ。誰が儂の血を使ってレックスを殺したか、お前さんも真実を知りたいのではないか?」
仲間の中に人殺しが居る。ただの憶測だと否定したいが、他に考えられる原因はない。
このままでは自分が疑われ、罪人として最後を迎える事になるかもしれない。
語られた言葉達を信じて良いものか、躊躇いはある。けれど、ジジイを思わせる温かい眼差しに、嘘はない様に思えた。
バージルは奮い立ち、導かれた方へ進む事にした。
「よくわかんねぇ事ばかりだけど……本当にレックスを殺した奴がこの屋敷に居るなら、俺は知りてぇ。何が起こったのか突き止めねぇと気が済まない」
意思を固めたバージルへ笑みを落とすと、アルカードは表情を引き締めた。
進むべき廊下の方へと視線を向けている。
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